「エジプトには素敵なものがある」

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 アフマド・ヘルミーの『アサル・エスワド』という映画で使われているمصر فيها حاجة حلوة(エジプトには素敵なものがある)という歌。


فيها حاجة حلوة . حاجة حلوة بينا
حاجة كل ما تزيد زيادة فيها إنة
فيها نية صافية .فيها حاجة دافية
حاجة بتخليك تتبت فيها سنة سنة

مصــــر هى الصبح بدرى. مصـــر صوت الفجر يدن
سوبيا . فول . طعمية .كشرى. دوم . بطاطا سخنة جدا
مصــــر أول يوم العيد .عيدية .بمب ولبس جديد
فن سينما وغنى وتياترو. حفلة تلاتة فى سينما مترو
موائد رحمن . فانوس رمضان . مسلم فى بيت مسيحى فطروا
ترنيمة لايقة على تخت غنى .

تأييلة العصرية فى مصر ولمة على الطبلية فى مصر
مولد السيدة والذكر والهيصة وركعتين بركة فى السيدة نفييسة
والمشى ع الكورنيش والبركة في لقمة عيش.فرح بلدي و ليلة حنه
فيها حاجة حلوة . حاجة حلوة بينا
دى تتعبك و لا بتسيبها
تحيرك برضه حاببها على بعضها كدا بعيوبها حتة من الجنة
فيها حاجة حلوة

以下、かなり直訳ですが解説。

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素敵なものがある わたしたちの中には素敵なものがある
進む度に不思議なものがある1
清い意志がある 温かいものがある
少しずつ夢中にさせるものがある2

エジプト、早朝 エジプト、ファジュルのアザーンの声3
ソビヤ、フール、ターメイヤ、コシャリ、ドーム、とても温かいバタータ4
エジプト、イードの初日 アーディーヤ、爆竹、新しい服5
映画、歌、芝居 シネマ・メトロの三時の回6
ラフマーンのテーブル ラマダーンのファーヌース ムスリムがキリスト教徒の家でイフタールをとる7
賛美歌がバンドに合う

エジプトでの午後の昼寝 エジプトで低いテーブルに集う8
サイーダのモーリド、ジクル、大騒ぎ、サイーダ・ナフィーサでの二ルクアの祝福9
コルネーシュを歩き パン一切れにも満たされる 早朝の喜び 慈しみの夜10
素敵なものがある わたしたちの中には素敵なものがある
疲れるけれど、離れられない
悩まされもする でもその全部が好き 欠点も含めて 天国の一部のように
素敵なものがある

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 前にصوت الحريه(自由の声)という革命の歌を貼りました。『自由の声』は日本のネット界隈でもちょっと話題になったので、ご存知の方も多いかと思いますし、わたしも好きなのですが、あんまり「エジプト!」という感じがしません。曲がオシャレすぎるし、言葉も割と高い階級の上品なアーミーヤという感じがします。
 これに比べると、このمصر فيها حاجة حلوةは、中流か中の上くらいの、普通のエジプト、という印象があります。コテコテに大衆的な感じではないですが、取り澄ましていることもない。『自由の声』のアーミーヤは外国人にも非常に聞き取り易いのですが、それに比べると『素敵なものがある』は単語がとてもエジプト的です。ただ、コテコテで全然取り付く島がない、ということはなく、割と普通に使われる表現がほとんどです。
 本当にコテコテになると、正直何を言っているやらサッパリ分からなかったするし、エジプト人でも階級が違うと全部は聞き取れないことがあるそうです。
 
 映画『アサル・エスワド』は残念ながらまだ見ていないのですが、確か去年か一昨年くらいのアフマド・ヘルミーのまだ新しい映画です。アメリカに移住した(二世?)のエジプト人が、愛しのエジプトに帰ってきたものの、何もかもが違って苦労する、というお話らしいです。
 このヒグラ(移住)というテーマは、エジプト社会を考える上では非常に重要です。多くの人々が湾岸の裕福なアラブ諸国や、欧米に出稼ぎに行くからです。特に行き先が欧米の場合、出稼ぎというより移住というイメージになり、選ばれた者が新天地に羽ばたく一面がある一方、ちょっと「裏切り者」的なイメージもあり、社会的に複雑なポジションにあります。多くの場合、エジプトにうんざりして旅だった優秀なエジプト人も、海外に出ればどうしたって「エジプト人」ですし、口で悪しざまに言っても心の底ではエジプトに焦がれていることが多いようです。
 酷いけど祖国。愛する祖国だけど、給料クソ安いし空気悪いしすべてがカオスで何一つスムーズに行かない疲れるエジプト。そんな複合的感情があるのでしょう。

  1. في إن で「変なものがある」「疑問がある」のような意味になる []
  2. تبت في で「夢中になる」「のめり込む」の意 []
  3. ファジュルは早朝の礼拝。アザーンは礼拝を告げる声。أذن يأذنがエジプト方言ではيدنになる []
  4. ソビヤはエジプトの白いカルピスのような飲み物。フールは豆で、非常に一般的な食事で、特に朝食に食べられる。ターメイヤは豆コロッケ。コシャリは米とレンズ豆とパスタの混ざった丼もののような食べ物。ドームは安い大衆的な果物。バタータはサツマイモのような芋で、焼き芋屋さんが街角にいる。ただし日本のサツマイモより水っぽくてべちゃべちゃしている []
  5. イードはイスラームの祭で年に二回ある。アーディーヤはお年玉のようにイードの日に子供に配るお金。「爆竹」としたのはبمبでbombから来た外来語。「とても健康」という意味でも使う。イードには子供は新しい服を着る習慣がある []
  6. シネマ・メトロは有名な映画館。「三時の回」は三時から始まる上映で、一番人気がある []
  7. ラマダーンは言わずと知れた斎戒(断食)。موائد رحمانラフマーンのテーブルは、ラマダーンの時に通りにテーブルを並べて貧者に食事を供すうこと。ファーヌースはラマダーンの時に灯すランプ。イフタールはラマダーンの日没後に最初にとる食事。 []
  8. طبليةは低いテーブルで、ちゃぶ台的存在。大衆的だが安心する家庭的なイメージがある []
  9. モーリドは生誕祭。サイーダのモーリドとは、サイイダ・ゼイナブ生誕祭のこと。サイイダ・ゼイナブはイスラーム草創期の重要人物の一人。ジクルは唱念、主の御名を唱えること。サイーダ・ナフィーサはここではモスクの名前。ルクアは礼拝(サラート)の単位 []
  10. コルネーシュはナイル川沿いの道のこと []



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