ウマル・スレマーンとラァファト・アル=ハッガーン

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 1月25日の出来事の前、エジプト人たちはウマル・スレイマーンを根拠もなく好意的に見ていた。この男の奇妙な人気は、単にエジプト諜報機関長官であることから来ている。諜報機関はエジプト中で尊敬されている。多くの人々が彼を副大統領に推した。彼が移行期間の大統領となり、その間に憲法改正を行なって欲しい、と願った者もいた。
 皆がウマル・スレイマーンを好きであったことが奇妙なのは、革命の燃え盛る中、副大統領として初めて登場するまで、彼がまるで喋っていなかったからだ。彼からは国内政治に関する何ら才能を示すものも見いだせなかった。確かに前大統領は、いくつかの微妙な問題について、彼の助けを求めていた。例えばパレスチナ諸派の統一とか、エジプト・イスラエル関係といったことだ。ただ、この男については何も分からないままだった。
 ただ諜報機関の長官だということで、民衆は彼がゆのうだと考え、尊敬していた。おそらくその唯一の原因は、イスラエルに潜入したエジプトで最も有名なスパイの一人、ラァファト・アル=ハッガーンだ1。さらに革命前数年間におけるウマル・スレイマーンの株を上げたのが、彼は英雄で、エジプトのためにその英雄性を隠しているのだ、と皆が考えたことだ。彼のことが好きだった人たちというのは、諜報機関が好きで、スパイ大作戦とか、ナビール・ファールークのドラマのアドハム・サブリーが好きな人たちだ。これらが諜報機関員には凄い能力と力が備わっている、というイメージを作ってしまったのだ。
 1月25日より前の五年間ほどに、ムバーラクに何を望むか、と誰かに尋ねたら、ウマル・スレイマーンを副大統領にして欲しい、という答えを聞いたろう。ウマル・スレイマーンは強い男、諜報部員で、次のエジプト大統領にあるだろう、と。しかし経験が証したのは、皆が最大級のどんでん返しを食らうということだった。逆風が吹き、革命にとっては良いことだったが、ウマル・スレイマーンが人々の前で喋ることになった。するとそこには、何のカリスマ性もない人物がいた。こわばった顔に微笑みを表す術も知らず、いかなる政治的実行力も持ちあわせていないようだった。彼は困難な時に登場した。人々をなだめて何とかしなければならなかった。ところが彼は、エジプト民衆はまだ民主主義を勉強しなければいけない、と語ったのだ。これだけの革命の日々が過ぎ、タハリール広場では何千人もが座り込みを続けていたのに。時が経ち、ウマル・スレイマーンは政治的に「ボンクラ」だとはっきりした。「クフルを塗ろうとして目を潰す」男だったのだ2。デモ隊すべてがその打倒を求めていた体制と同じ、どうしようもない台詞を吐いたのだ。正しくは、彼は体制にこの台詞を吹きこまれたのだろう。
 僕たちは、ウマル・スレイマーンが革命を歪曲しようとするのを前にした。ムスリム同胞団がデモ隊を率いているとか、タハリールのデモ隊は謀略を企てているなどと言い、また、こうしたことはエジプトの倫理に反するからという理由で、断固として大統領辞任を拒否した。おかしなことに、彼はこうしたことを、彼が多くの政治勢力に呼びかけた偽物の国民対話の席でも語った。この対話は、前の治安当局の命令を受けた、偽物の漫画的諸政党との間で行われた。何ら現実的役割も持っていない諸政党だ。またスレイマーンは、タハリールの若者たちとも会ったが、その人々が皆を代表するものではなく、他の人たちに広場を去ることを強いたり説得したりする力がないことを、理解していなかった。
 皆にとって辛かったのは、ウマル・スレイマーンが、エジプトのテレビに命令しエジプト人民を欺こうとしたことだ。古臭いテレビドラマのような脅しのイメージを押し付け、洗脳しようとした。タハリールで起きていることが、何ら現実とつながりを持っていないかのようなイメージを作ろうとした。世界中の衛星放送が真実を伝えていたのに。
 このドラマの回を追うごとに、声明を一つ出す度に、ウマル・スレイマーンは、予想を裏切り、彼本人が望んだ訳でもなかった人気を失っていった。
 奇妙なことに、微笑むことを知らない七十六歳を越えたこのウマル・スレイマーンという男がこれからどうするのか、誰も知らない。突然、諜報機関長官という座からも放り出され、民衆や文化人、若者たちの人気も失った。その英雄性について誰も知りはしなかったのだが、それを全部失ってしまった。
 かつて皆が彼に重ねあわせていた、ラァファト・アル=ハッガーンのイメージまでも。

  1. ラァファト・アル=ハッガーンは、本文中でも語られている有名なスパイで、彼を主人公にしたテレビドラマなどが制作されたため、エジプトの英雄的人物となった。 []
  2. クフルとは伝統的なアイシャドーのことで、物事のやり方を知らず、最悪の結果を出してしまうことを言う諺。 []

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