革命開始から少し経って、体制に守られたメディアは、エジプト民衆を洗脳すべく、汚い手口を使い始めた。タハリールの革命家たちへの共感と支持を失わせようと、進行中の出来事に疑義を差し挟ませ、革命青年らを嫌わせ、彼らこそがこの国で起こるであろうすべての悪いことの原因だと思わせようとしたのだ。だからこれを書かない訳にはいかない。
巨大なチンピラたちに直面している親愛なる若者たちよ。ラクダ事件では、ラクダ乗りたちと対峙した1。彼らは呪うべき不信仰者、あるいは礼節をわきまえない軟弱な若者たちからタハリールを解放しようとしていた2。彼らが革命を呪ったのは、市場がハシーシュ不足になったり、あるいは「朝どうやって仕事に行くんだ」ということしか気にかけないからだが。あるいは、品の良い人たちであれば、起こっていることが「下品で品性にもとる」ことと考えた。あるいは、これは難産の連絡を受けた産院は安全なお産に備えているようなもので、エジプトのテレビので言えば、ミフワル衛星チャンネルが診察室で、ドリームとハヤートが大部屋病室、ファラーイーンがトイレだ、と考えた3。
怠慢に次ぐ頑迷、隠蔽に次ぐ愚昧、カラス辞任への疑念が増す中4、ある一群の人々が現れた。定まった見方を持たず、視野が狭くて目を良くするのに人参を食べた方が良い人々だ5。突然至るところに現れ、国を愛する人となった。七千年の歴史を持ち、五回のアフリカカップが開催され、そのうち四つはムバーラクの時代で――これは結構な成果!――三つはハサン・シャハータ監督だったこの国を。エジプトのテレビに登場し、嘘と欺き、ユニークな二枚舌のプロフェッショナルだ。「祖国への愛は我が義務、我が魂と血をもって贖わん」とのたまい、タハリール広場の占領者は裏切り者のスパイで、ヤツらには謀略、カレンダー、「サミールとアリー」で買った壁掛け時計があり6、呪うべき裏切り者イランに援助されている(アリーという名前だから)7、と言った。あるいは、アメリカから見返りのケンタッキーを貰っていて、ただイフワーンは「ムゥミン」のサンドイッチで我慢している、とか8。あるいは、金と一緒にヘロイン女と金や宝石、珊瑚を配られているとか、国を破壊し神の下僕の暮らしを壊しているとか。あるいは、六ヶ月後ではなく今すぐムバーラクを辞めさせようなんて、ことを急ぎすぎだとか。ムバーラク大統領はパパでママでアンワル・ワグディーおじさんだと思っているヤツが喋っていたり9。彼こそが祖国という船を率いていて、僕たちが安心と安全と安定を感じ、町のチンピラや邪悪な革命家たちに怯えて暮らさないようにするためなのだ、とか。そういうことを言われて、胸の苦しい者もいるだろう。分かってくれない人たちに対し、信念を伝え、安心させて、正確な言い方で真実を分からせたい、そういう人は以下の文章を返答にしたら良い。誰にでも答えを返し、教えることができるだろう。僕らに必要なのは、若者の運動を終わらせようとするヤツらではなく、団結なのだ、と。
では始めよう。
「お前ら何者なんだ?」と言われた時
こう言ったらいい。
僕たちとかあなたたちなんてものはない。タハリールにいる人々は、あなたちの子供たち、父親たち、兄弟たちだ。問題を抱え、それを訴えても誰にも相手にされなかった人々だ。ことが上手くいけば、エジプト中の何百万人もの人たちがこれに含まれるだろう。タハリール広場だけのものじゃない。集まっている人々は、不正の元にあり、もう虐げられたくない人たちだ。あなたが口にしたくて、でもこっそりとしか言えなかったことを言っているのだ。あなたに実現したくてできなかったことを、実現したのだ。あなたがつまらないヤツらだと思い、何もできないと思っていた彼らが、だ。ちょっと昼間に出てきてシュプレヒコールを上げるけれど、何も変えられないだろうと思っていた人たちだ。あなたの望んでいたことを実現したんだ。体制はあなたが彼らの側につくのが怖くて、脅しているんだ。メディアを使って怖がらせているんだ。彼らのことを嫌いになるよう、噂を流してるんだ。彼らが今もあそこにいるのは、あなたのためだ。あなたの子供たちの未来のためだ。あなたと彼らは一つなんだ。
「あの男は返答しただろう、もう十分じゃないか」と言われた時10
こう言ったらいい。
本当の返答というのは、約束なしにはあり得ない。約束しても、実行され改革されないといけないし、改革があっても形だけじゃダメだし、一部の人の為のものでもダメだ。つまりこの国の腐敗した支配勢力のためのものだけでは。
大体、返答ってなんだ?
十年以上も聞けと言っても聞く耳を持たなかった。
旦那様、と言っても返答なし。
愛しい人よ、と言っても返答なし。
おじさん、と言っても返答なし。
どうするってんだ?
副大統領を立てるべきだ、と言えば、ヤツはこう言うんだ。それを強制する法はない(彼自身は副大統領から大統領になったのだけれど)、政権移行については心配するな(ボンボン息子が用意された道を通って権力の座にパラシュート降下すれば、大虐殺みたいなものだって分かっているのに)。
僕らは内務大臣の辞任を求めている。警察が人々を拷問し、デモ参加者を攻撃し、チンピラを政治活動家に差し向け、令状なしに逮捕したからだ。だがそれも無視された。
僕らは憲法改正を求めている。すると、それは危険だ、君たちにとって何が良いかは分かっている、と言って、どうでもいいヤツを連れてくる。お前たちには民主主義の資格がない、と言う。
何をしようが信用できるか。何を変えようがもう沢山だ。もうこれ以上どうしようもないだろう。
タハリールの人々は、毎日勝利を勝ち取り実現している。以前は要求しても馬鹿にされ、不可能だとか時間がかかるとか言われたことが、ほら、数日で出来ているじゃないか。
副大統領は指名され、憲法も改正される。悪徳内務大臣は罷免された。腐敗した実業家たちは渡航を禁止され、彼らのために商売していた大臣たちについても、思うようにできるだろう。そして一番大事なのは、心臓が動いている限り留まる、と言っていた男を出て行かせることだ。権力の座に飛び乗る予定だったその息子を追い出し、支配などできないようにすることだ。
もう十分だ、と言うなら、こう言おう。まだまだだ。
死んだ仲間たちはどうなる。チンピラを使って彼らを殺させた実業家や国民党のヤツらを突き止めなきゃいけない。
丸腰で、暴力を使わず断固平和的にやっていたのに、目や頭を撃たれて死んだ仲間たちはどうなる。
不当にひどい目にあわされ、コネ持ちの雇い主に搾取され、腐敗したものに時分や子供たちの糧を奪われた総ての者たちの復讐がある。全部まだだ。放っておくことはできない。十分じゃない。
もしあなたがひどい目にあわされたり、子供を目の前で撃ち殺されたり、知り合いがタハリールでファジュルの礼拝をしている時にスナイパーに撃たれたり、バルコニーからアスル・アイニー橋を撮影していて頭を撃たれたりしたら、十分じゃないって分かるだろう。まだ始まったばかりだ。
タハリールの人たちのせいで仕事に行けない、国をめちゃくちゃにしている、と言われたら
こう言ったらいい。
次は休みの前日にやるさ、って。
8,500万人の国が、広場の一握りの人々だけで麻痺するのか。一人の男が30年間支配している国が、三日でダメになるのか。それなら、それだけでも広場に行く値打ちがあるし、あのいなくなっても誰も困らないヤツを追い出す値打ちがある。30年間、どんなことが起きても、これに対応できる体制も何も作って来なかったんだから。
それから、悪いけれど、その仕事ってのは何だ?
何百万も稼いでいるヤツがいる一方で、雀の涙みたいな金を貰う仕事だろう。
半月で給料を使い果たし、あとは借金で食いつなぐ仕事だろう。
仕事と言っても、一生涯、おお主よ、給料を増やして下さい、と言って、誰にも聞いてもらえない仕事だろう。増えても20ギニーか30ギニーで、1キロの肉も買えない。毎年メーデーに、お助け下さい、って社長にすがりつく仕事だろう。自分でよく分かっているだろう、値打ちのある仕事じゃないし、どこにもたどり着かないって。新しい仕事が欲しければコネがないといけないし。
仕事に行ったって、隠れ失業者になるだけだ。
良心があり、仕事をよくしようと思って雇い主に言っても、「お前がそんなに賢いってのか、俺らに分からないことがお前に分かるって?」と足蹴にされて、腐敗システムの新しい歯車になるしかない仕事だろう。
汚職を見つけても怖くて報告できない仕事だろう。皆が言うんだ、「パンを食べ子供を育て、残りの人生をじっとこらえて生きろ」。
誰にもバレないように書類の整理をする仕事だろう。
朝から帰る時間の計算をして、誰の役にも立たず時間を潰すのだけが上手くなる仕事だろう。
退職したら、同僚たちはファイルを引き出しに放り込んで誰も気にも書けない仕事だろう。
仕事はデモがあろうが別に普通にできる。政府や体制が愚かにもできなくしているんだ。タハリール広場の人々のせいで仕事ができない、という印象を与えるために。
タハリールの人たちが外出禁止令を出したのか?
1月25日革命の人々が、あなたを家で怯えさせたり、あなたの子供たちを粗末な武器を手に通りに出て行かせたり、犯罪者から身を守れ、とか言ったのか?
あの若者たちが、家を守るために外に出るようにさせているのか? 彼らが銃で脅かしたり、犯罪者を牢から放ったりしているのか?
目を覚ませ。アッラーが慈しまれよう。
「お前たちは俺らを代弁していない、俺らは大統領が好きなんだ。俺たちは何百万もいて、お前らは二百万ばかりだ」と言われたら
こう言ったらいい。
おいおい、勘弁してくれよ。
もしデモ隊が二百万だけなら、どうやって残りの8,000万を思うように従わせるんだ。
僕はあなたの大統領への愛を尊重する。でも僕らはもう彼が好きじゃない。僕らが彼の打倒、彼の体制の打倒のために繰り出し、辞任を願うなら、僕ではなくあなたが、自分でそう言えばいい。前向きになって、僕らのようにすればいい。彼がいつづけるように願えばいい。でもそれをするなら、タハリールの青年クラブのように、礼節をもってやってくれ。タハリールの青年たちのように、平和的にやってくれ。タハリールの若者たちのように、誰にも触れないようにやってくれ。そうでないなら、あなたは乱暴者だ。あなたの好きな大統領は、乱暴者たちの大統領だ。それにあなたは、望んでいるよりは劣勢だ。あなたたちの考えを尊重はするけれど、多数派ではなく少数派だ。あなたとその仲間は全部合わせても200万だ。しかし1月25日の若者たちは真の多数派だ。彼らを尊重して欲しい。
「あれはあんたの親父みたいな男だぞ、こんなのは失敬じゃないか」と言われたら11
こう言ったらいい。
もしムバーラクが父なら、ママはスーザーンだ、ガマールは兄弟で、サフゥワト・アッ=シャリーフは従兄弟で、ザカリヤー・アズミーも従兄弟で、大臣たちも従兄弟だ。あなた自身も従兄弟くらいにはなるんじゃないか。馬鹿馬鹿しい。
共和国大統領というのは、職員だ。職員というのは、間違えればその分差し引かれるし、正しいことをすれば評価される。許されない間違いを犯して人を死なせたり虐げたりしたら、クビになる。
共和国大統領というのは、僕やあなた、僕らすべてのお金から給料を貰っているんだ。あなたの理屈で「親父」ならば、30年も間違えたら禁治産者にしなくちゃならない。
僕らは彼の言うような、外国の手先で謀略を企んでいるものじゃない。彼が正しいことをすれば、敬意をもってその価値を認める。10月戦争の英雄の一人として、その歴史を評価する。そして大統領としての間違いは決して看過しない。だから辞任するまで踏ん張らないといけない。そして辞任するだろう。
どんな役職にあろうが、民衆の意志は個人の意志より強い。
時が裁くだろう。僕らが正しいなら彼が去り、間違っているなら僕らが去る。
そして去ったものは、決して戻ってこない。
最後に「デモ隊の若者たちを応援したいだけど、誰に言ったらいいんだ」と言われたら
こう言ったらいい。
ケンタッキーに電話してくれ、と12。
- ムバーラク支持派がラクダや馬に乗ってタハリールに突入した事件のことを言っている。 [↩]
- タハリールとは「解放」の意味なので、「タハリールの解放」は「解放の解放」というネタになっている。 [↩]
- ミフワル、ドリームなどは、テレビのチャンネル名。ファラーイーンは権力よりで人気がなかった。 [↩]
- カラスは不吉な存在、ここではムバーラクを象徴しており、同時にリコリアリァリィとリァリウリェリコリアリァリィでシャレになっている [↩]
- 人参を食べると目に良い、と思われており、これと「近視眼」という抽象的意味がかけられている。 [↩]
- 「謀略」という意味で使われているリ」リャル・ッリァリェには「日程」の意味もあり、それとカレンダー、壁掛け時計を並べたシャレ。 [↩]
- サミールとアリーは、エジプトの有名な文房具店。四代目正当カリフでシーア派に神聖視されるアリーと同じ名前であることから、シーアの援助を受けている、ということ。もちろんこれはジョークだが、そういう何の根拠もない陰謀論を唱える人々が現れた、ということを言っている。 [↩]
- 革命青年たちが外国の手先だという陰謀論は数多く、「ケンタッキーを食べさせて貰っている」というのは有名なものの一つ。また、イフワーン(ムスリム同胞団)は、アメリカの手先ではないのでケンタッキーは食べず、代わりにムゥミン(信仰者)という名前の店のサンドイッチをご馳走して貰っている、というネタ。 [↩]
- ムバーラクに忠誠を誓う者たちは、ムバーラクを父親のように語っていた。アンワル・ワグディーはエジプトの古い俳優で、彼の映画に「パパとかママとか・・」という台詞があり、これとかけている。 [↩]
- ムバーラクが革命勢力の要求に返答した、ということ。次の大統領選への不出馬表明等を指す [↩]
- 親父のような男とは、ムバーラクのことを指している。 [↩]
- タハリールの青年たちが外国の手先で、ケンタッキーを奢ってもらってデモをしている、というデマがあったので、それをからかっている [↩]