讃えある至高なるアッラーは、いつもその下僕に試練を与えます。その下僕が倫理的に優れ、心が澄んでいると、試練はより困難になります。最も偉大な人間とは、預言者たちです。ですから、彼らの試練は、最も厳しいものになります。アイユーブは、アッラーがその身体を病で試みた預言者でした。
また、ユーヌスは、アッラーがその心に対し、怒りをもって試練を与えた預言者です。
すべての預言者は、アッラーの慈悲と平安により試練を乗り越え、救われました。
アイユーブは、正しきアッラーの下僕でした。アッラーは彼に対し、その財産と家族、身体から、試練を与えようと望まれました。大金持ちだったのが財産を失って貧しくなり、さらに家族を失い、孤独に意味を知りました。また、酷い病気が彼を苦しめました。しかし彼は、これらすべてに耐え、アッラーに仕え、感謝し、賛美しました。
豊かさへの忍耐の後に、貧しさに耐え、賑わいと幸せへの忍耐の後に、孤独と悲しみに耐え、健康に耐え感謝したように、病に耐え感謝しました。
病は長引き、ますます貧しくなり、人々は彼を見捨て、病と悲しみと孤独のうちで、毎日を一人で過ごすようになりました。
彼の人生は、苦しみの三角形で出来ていました。病と悲しみ、そして孤独です。それにも関わらず、彼は忍耐を、そして感謝と崇拝を忘れませんでした。
ある日シャイターンがやって来て、彼に言いました。
「アイユーブよ、あなたを苦しめている痛みと罰は、わたしの災いによるものです。ただの一日忍耐をやめれば、罰も痛みも去り、快復するでしょう」
アイユーブは、シャイターンを部屋から追い出しながら言いました。
「去れ、二度と戻ってくるな。わたしが忍耐をやめることはないし、感謝も崇拝もやめることはない」
シャイターンは、悪態をつきながらアイユーブの部屋から出ていきました。アイユーブは怒りながら腰掛けました。シャイターンが厚かましくもやって来て、彼をそそのかしたり誘惑したりできると考えたのが、腹立たしかったのです。
アイユーブの妻が遅れてやって来た時、彼が怒りました。身体が治ったら杖で百回も打ってやろう、と誓ったほどです。いずれ快復するとも思っていなかったのですが。彼の忍耐は大河のように広かったのです。この夜、アイユーブは山に出かけ、主に呼びかけました。
{わがしもべ、アイユーブを思い起しなさい。かれが主に向かって、「シャイターンがわたしを悩ませ、苦しみ抜いているのです。」と叫んだ時を思い起しなさい 38-41}
アイユーブは泣きながらアッラーに祈りました。アッラーは彼にこう命じました。
{あなたの足で(大地を)踏みなさい。そこには清涼な沐浴と飲料のための(水)があろう。 38-42}
アッラーは彼に、山の中のある泉で沐浴するよう命じられたのです。アッラーは、この泉の水を飲むよう命じられました。アイユーブは走って行って、沐浴し飲みました。最後の一口を飲み干すや否や、突如として快復しているのを感じました。熱はなくなって、痛みも去り、体温も平熱に戻っていました。
アッラーはアイユーブに{慈悲として、(再び)家族を2倍にして授け 38-43}られました。アイユーブはもう孤独ではありませんでした。
アッラーはその下僕を尊び何倍もの財を授けられ、アイユーブは貧しさから抜け出しました。
長い病の末、彼は健康を取り戻しました。アイユーブはアッラーに感謝しました。以前に彼は、快復したら杖で妻を百回打つ、と誓っていました。この通り彼は快復しましたが、讃えある至高なるアッラーは、彼が本当に妻を打とうとは思っていなかったことをご存知でした。そこで、誓いを破らないため、嘘つきにならないため、メボウキの茎を百本集めるよう命じられ、それで妻を一回打たせました。これで彼は誓いを果たし、嘘をつかずに済みました。
アッラーは、アイユーブの忍耐に対し、聖クルアーンの中でこのような賞賛で報いています。
{われは、かれが良く耐え忍ぶことを知った。何と優れたしもべではないか。かれは(主の命令に服して)常に(われの許に)帰った 38-44}
「常に帰った」(アウワーブ)とは、アッラーの元に立ち返る、ということです。アイユーブは、唱念と忍耐により常にアッラーの元に立ち返り、その忍耐が故に、彼は救われ、試練を乗り越えたのです。
アイユーブが忍耐により救われたように、ユーヌスは賞賛により救われました。
彼はユーヌスともズー・ヌーンとも呼ばれていました。
彼はアッラーに遣わされた寛大なる預言者で、その民の元へ赴き訓戒し、助言し、善へと導き、審判の日について語りました。火獄を恐れ天国を望むように語り、善行を奨め、唯一なるアッラーの崇拝を呼びかけました。
ズー・ヌーンはその民に助言し続けましたが、誰一人として信じませんでした。
とうとうユーヌスが民に絶望する日が訪れ、その心は信じない彼らへの怒りで一杯になり、怒りにまかせて飛び出し、彼らを見捨てました。
至高なるアッラーは、彼の物語を次のような言葉で始めていらっしゃいます。
{またズン・ヌーンである。かれが激怒して出かけた時を思いなさい。かれは、われが自分を難儀させるようなことはないと思いながら(・・・) 21-87}
ユーヌスをここに至らせた気持ちの激しさがいかほどであったのか、アッラーお一人以外に知りようもありません。ユーヌスはその民に怒り、憎み、残念に思い、悲しみ、出ていきました。
海岸に出て、他の場所へ行く船に乗ろうと決めました。
民を捨て諦めよ、という神聖なる命令など出されていません。ただユーヌスは、民を捨てたところでアッラーが罰を下されることはないだろう、と考えたのです。ユーヌス(彼の上に平安あれ)は、預言者とはただアッラーへの呼びかけを命じられたもので、それが成功するかは別だということを忘れていたのです。成功するかどうかは別問題として、アッラーへの呼びかけをしなければなりません。
船は小さな港に停泊していて、太陽は沈みかけていました。波が海岸に打ち寄せ、岩に砕けていました。ユーヌスは、小さな魚がどうしていいか分からないまま波に向かっていくのを眺めました。大きな波がやって来て、魚を岩に叩きつけてしまいました。ユーヌスは悲しみ、小さな魚に哀れみを覚えました。大きな魚と一緒だったらうまく行っただろうに、と独り言を言いました。そして、自分の状況と民を捨てたことを思い出しました。悲しみと怒りが大きくなりました。
そして船に乗り、旅を始めました。
船長は、彼が悲しみに打ちひしがれ落ち込んでいることに気付きました。彼が逃亡者なのではないかと心配になり、何倍もの運賃を要求しましたが、ユーヌスは支払いました。洋上で夜が来ました。
突然大風が吹き、海が大荒れになりました。波は荒れ狂い、山のように盛り上がっては打ち砕け、船を翻弄しました。波が甲板の上にかぶさり、その上にいた人にぶつかり服はずぶ濡れになりました。船長は言いました。
「季節でもないのに嵐になっている。この船に間違った人間が乗っているので、そのせいで嵐になったのだ。これから乗客にくじを引いてもらう。名前が出てきた者を、海に放り込もう」
ユーヌスは、これが嵐になった時の船の伝統の一つだと知っていました。おかしな伝統でしたが、この時代には広まっていました。
ユーヌスはこれに加わり、乗客たちと共に名前を連ねました。
くじが引かれると、ユーヌスの名前が現れました。
慣例に則りもう一度くじがひかれましたが、またユーヌスの名前が出ました。
くじが三回行われることはなく、彼を海へ放りこむことで意見が一致しました。皆がユーヌスを見つめました。彼は、服から火を払うように疑いの視線を向けました。
三度目のくじがひかれました。
ユーヌスの心臓は高鳴り、船長は彼の名を三度読み上げました。
ことは決着し、ユーヌスは自分から海に飛び込むことにしました。彼は、民を捨ててもアッラーに罰されることはないだろうと考えた時に、既に過ちを犯していたことを理解しました。
アッラーの許しなく民を捨てたことで、ユーヌスは過ちを犯したのです。この通り、讃えある至高なるアッラーは罰を下されたのです。ユーヌスは船の縁に立ち、荒れ狂う海と黒い波を見つめました。月もない夜で、星も黒い靄の向こうに隠れていました。水は黒く冷たく、骨まで貫きました。水がすべてを覆っていました。
船長が叫びました。
「飛ぶのだ、名も知らぬ乗客よ」
ユーヌスは海に飛び込みました。
その瞬間です。海の底にいた一匹の巨大な鯨に、海面に出るよう命令が下りました。鯨は波の上に浮かび上がり、ユーヌスの前に現れ、喜びを表しました。アッラーが彼に夕食を送って下さったからです。
鯨はユーヌスに向かっていき、一飲みにしてしまいました。鯨は満足し、深い海の底へと戻って行きました。
ユーヌスは鯨のお腹の中で気付きました。鯨は彼を飲み込んだまま海を泳ぎ、海は夜の奥を流れていました。三重の闇が重なっていました。
鯨のお腹の中の闇。
海の底の闇。
夜の闇。
ユーヌスは自分が死んだのかと思いましたが、感覚があり、動けることがわかりました。彼は生きているのです。しかし彼は、三つの闇の奥に閉じ込められていました。
ユーヌスは泣いて、アッラーを讃え始めました。
三つの闇に閉じ込められながら、彼はアッラーの元へと立ち返る旅を始めたのです。
{あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした 21-87}
{あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした 21-87}
{あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした 21-87}
ユーヌスは鯨のお腹に顔を埋め、アッラーを讃えました。鯨は泳ぎ疲れて、海の底で寝そべって眠っていました。ユーヌスはアッラーを賛美し続けました。彼の涙は、とどまることなく、和らぐことなく、途切れることもありませんでした。食べず飲まず動くこともありませんでした。彼は食を断っていました。彼の食べ物は、懺悔と涙と賛美でした。
魚たち、鯨たち、海藻たち、海の深みで生きるすべての被造物が、ユーヌスの賛美の声を聞きました。賛美はこの鯨の中から聞こえました。被造物たちが鯨の周りに集まり、アッラーを賛美し始めました。それぞれが、それぞれのやり方、それぞれの言葉で。
そして最後に、ユーヌスを飲み込んだ鯨が、賛美の声に目を覚ましました。そして、海の底で、鯨や魚や海の生き物や海藻や岩や砂が偉大な祭典を催し、アッラーを賛美しているのを見ました。鯨も賛美に加わり、預言者を飲み込んでしまったことに気付きました。鯨は恐怖を感じましたが、こう言いました。
「なぜ恐れるのだろう。アッラーが飲み込むように命じられたのではないか」
ユーヌスがどれほど鯨の中に留まったのか、知りようもありません。
{あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした 21-87}
{あなたの外に神はありません。あなたの栄光を讃えます。本当にわたしは不義な者でした 21-87}
讃えあるアッラーは、ユーヌスの悔悟に、彼の誠実さを認められました。至高なるアッラーは、鯨のお腹の中で彼が賛美するのを聞かれました。そして鯨に、海面に出て島のところでお腹からユーヌスを吐き出すよう、命じられました。
鯨は従いました。
ユーヌスが気付くと、無人島の上に鯨から吐き出されていました。
彼の身体は、鯨の胃の酸でただれて、病んでいました。太陽が昇り、ただれた身体をその光が照らすと、アッラーへの賛美に戻り心を強く持っていなければ叫び出してしまいそうなほど、痛みました。
至高なるアッラーは、太陽から守る広い葉の木を生やされました。それからアッラーは彼を治療され、{10万人、またはそれ以上(の民)にかれを遣わした 37-147}。
至高なるアッラーは、賛美なくしては、審判の日も鯨のお腹の中にあったことを、分からせました。
至高者は仰いました。
{かれが(悔悟して主を)讃えなかったならば/かれら(人びと)が(復活して)起こされる日まで、必ずかれは魚の腹の中に留まったであろう 37-143 – 37-144}