ウザイル(彼の上に平安あれ)

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 誰もが乾きを感じる、暑い日のことでした。
 ウザイルの村は、夏のけだるい平穏な一日を過ごしていました。ウザイルは、彼の果樹園に水をやらないといけないと考えましたが、果樹園は遠く、そこに至る道は険しく、途中には墓地がありました。その墓地は以前は賑やかな町だったのですが、死の魔手が伸び、生気は消え、墓地の静けさしか残らなかったのです。
 ウザイルは、果樹園の木々が乾いてしまっていることを思い、水をやりに出発しました。この思慮深く公正な下僕にして、イスラーイールの民の預言者の一人は、太陽が一番高い時に、ロバに乗って村を出ました。
 果樹園まで進むと、木々は乾いていて、地はひび割れていました。彼は水をやり、イチジクの実をいくつか取り、ぶどう棚から葡萄を取り、それらを籠に入れて来た道を戻りました。
 ロバはウザイルを乗せて進みました。その間、彼は、やらなければならない事柄について考えていました。最初にしなければならなかったのは、タウラー(トーラー)を隠し場所から出して、寺院に持って行くことでした。彼は、敵が村を襲い、その知らせを聞いて、敵が見つけて燃やしてしまわないように、急いでタウラーを隠したことを思い出しました。また、牛に餌をやらなければいけないことも、考えました。また、小さな息子のことを考え、その可愛らしい笑顔を想いました。ロバを急き立て道半ばまで来て、墓場にさしかかりました。暑さは激しさを増し、ロバは疲れて、吹き出した汗が太陽の光で輝いていて、まるで川から出てきたようになっていました。
 墓場まで来たところで、ロバの歩みが遅くなりました。ウザイルは言いました。
「降りて少し休んで、ロバも休ませ、昼食をとろう」
 ウザイルは、壊れた墓の前でロバを降りました。村全体が、荒廃した墓場になっていました。持っていた皿を取り出し、日陰に腰掛けました。皿を置き、そこで葡萄を絞り、その果汁に乾いたパンを漬けました。背を壁に預け、足を少し伸ばし、ガチガチに固くなったパンが葡萄の果汁で柔らかくなるのを待ちました。ウザイルは辺りを見回し、風景を眺めました。
 すべての物が沈黙し、死に絶え、破壊されていました。
 家々はほとんどの壁が壊れ、残った柱も崩れかけています。
 砂漠地帯の少ない木々も、乾いて枯れています。
 残った埋葬された死者の骨も、土くれのようになっています。
 ただ沈黙が支配し、静寂が地に広がっています。
 ウザイルは死の厳しさと滅びの重みを感じ、心の中で自問しました。
{アッラーは、どのように死に絶えたこの町を甦らされるのだろうか 2-259}
 彼は、「アッラーは、土くれのようになった死者の骨を、どうやって生き返らせるのだろう」と考えたのです。ウザイルはアッラーが骨を生き返らせることを疑ったわけではなく、ただ驚きからこう言ったのです。すると、この言葉を言い終わるや否や、彼は死んでしまいました。
 アッラーが彼に死の天使(彼の上に平安あれ)を送られ、その魂を掴まれたのです。ロバは、主人が黙ってその身体が動かなくなるのを、寝そべったまま見ていました。日が暮れ、朝になるまで、ロバはそこで寝そべっていました。ロバは立ち上がって動こうとしましたが、繋がれたままでした。そして、飢えで死んでしまうまで、その場所から逃れることができませんでした。その主人の脇で、ロバは地に横たわりました。
 ウザイルの村の民は、彼の帰りが遅いと思い、探しに出かけました。
 彼の果樹園に行きましたが、そこには見当たりませんでした。村に戻っても跡も見つけられず、捜索隊を組織することにしました。捜索隊は方々を探しまわりましたが、ウザイルもそのロバも見つけることができませんでした。捜索隊は、ウザイルの死んだ墓地を通ったのですが、そこで止まらなかったのです。ウザイルがいれば声がするはずでしたが、そこではあらゆるものが死んで沈黙していました。加えて、この荒らされた墓地は恐ろしく、彼らはその中を真面目に探そうとしなかったのです。日々が過ぎ、人々はウザイルが戻ってくることは絶望的だと考えるようになりました。彼の息子たちは、彼を二度と見ることはないだろうと考え、彼の妻は、彼の愛を失い、また息子たちが彼に面倒をみてもらえないことを知り、長い間泣き続けました。ただ時だけが自然に涙と痛みを柔らげ、人々の涙を拭き取り、次第にウザイルのことを忘れさせ、人々は日々の雑事に追われるようになりました。
 数年が過ぎ、ウザイルの一番下の息子と、かつて彼の家で小間使いをしていた女以外、人々は彼を忘れていました。この女はウザイルに可愛がられ、彼が村からいなくなった時は二十歳でした。
 十年が過ぎ、二十年が過ぎ、八十年が過ぎ、九十年が過ぎ、丁度一世紀が過ぎました。百年が経ったのです。
 至高なるアッラーは、ウザイルを目覚めさせることを望まれました。
 アッラーは彼に、その心を照らし出す光の天使を送られ、いかにしてアッラーが死者を蘇らせるかを示されました。
 ウザイルは百年前に死んでいたのに、この通り、土くれが骨や肉や皮膚に変わり、それからアッラーは彼に生命を吹き込まれました。
 彼は元の場所に座っていました。百年続いた死から目覚めて、目をしょぼつかせていました。周りを見回すと墓があり、自分が眠っていたのだと思いました。ああ、果樹園から村に戻るところで、墓のところで眠ってしまったのだ、そうに違いない、と。太陽が沈みかけていたので、昼の間眠っていたのでしょう。
 彼は独り言を言いました。
「長いこと眠ってしまった、多分昼から夕方まで眠っていたのだろう」
 アッラーに命じられた目覚めの天使が、彼に尋ねました。
{あなたはどれくらい滞在したのか 2-259}
 天使がどれだけ眠っていたのか尋ねたので、彼は答えました。
{わたしは1日か半日過ごしました 2-259}
 寛大なる天使は彼に言いました。
{いや、あなたは百年滞在したのだ 2-259}
 あなたは百年眠っていたのです。百年前に死んだのです。死者の蘇りについて驚き不思議がったので、その質問に対し答えるために、アッラーがあなたを死なせ、蘇らせたのです。
 ウザイルは身に起こったことに驚き、その身体を創造主の力への深い信仰が満たしました。
 天使は、ウザイルの食べ物を指して言いました。
{あなたの食べ物と飲み物を見なさい 2-259}
 それらは変わっていませんでした。
 ウザイルがイチジクを見ると、以前と同じままでした。色も味も変わらず、腐ってもいませんでした。百年も経ったのに、どうして食べ物がそのままなのでしょう。ウザイルが、葡萄を絞り乾いたパンを浸しておいた皿を見ると、置いたままの状態でした。元通りです。葡萄の果汁は飲んで大丈夫なままで、乾いたパンは葡萄の果汁に浸かって固さがほぐれるのを待っていました。
 ウザイルは驚きました。葡萄の果汁が変わらないまま、どうして百年の時が過ぎるというのでしょう。数時間ですら、質が変わって腐ってしまうのに。天使は、ウザイルがまだ信じていないと感じたようで、ロバを指さして言いました。
{あなたのロパを見なさい 2-259}
 ウザイルがロバを見ると、ロバの骨が土くれになったものしかありませんでした。
 天使は彼に言いました。
「アッラーがいかにして死者を蘇らせるか見たいですか。地面をご覧なさい。かつてあなたのロバだった土くれがあります」
 天使は、アッラーの許しのもと、ロバの骨に呼びかけました。すると塵がこれに応えてあちこちから集まり、骨になりました。天使は血管、神経、肉を形作ると、肉が骨に被さりました。
 肉が出来上がるとその上に皮膚と毛が生え、ロバは死の瞬間のままの姿になりました。ただまだ、魂のない身体だけです。天使が、アッラーの許しのもと、ロバの魂に戻るよう命じると、魂が戻り、ロバは立ち上がり、しっぽを上げていななきました。
 ウザイルは、偉大な印を目の前にし、骨が土くれになった死者を蘇らせるアッラーの奇跡を目の当たりにしました。
 奇跡を見てから、ウザイルは言いました。
{アッラーが凡てのことに全能であられることが分りました 2-259}
 ウザイルは立ち上がり、ロバに乗って村に帰りました。讃えある至高なるアッラーは、ウザイルを人々への印、死者の復活を信じる生きた奇跡とすることを望まれました。
 ウザイルは日暮れに村に入り、その変わり様に驚きました。家々も通りも変わり、人々も変わり、誰も知っているものはおらず、誰も彼を知りませんでした。
 ウザイルが村を出たのは、彼が四十歳の時のことでした。戻ってきた時も四十歳でした。出発した時のままでした。
 アッラーは彼を死んだ時のまま蘇らせ、四十歳の壮年とされましたが、村では百年が過ぎていて、家々は取り壊され、通りも人の顔ぶれも変わっていました。
 ウザイルは呟きました。
「わたしを覚えている老人を探そう」
 探し続けて、二十歳の時に別れたかつての小間使いを見つけました。彼女は百二十歳で、力は衰え歯も抜け落ち、視力も衰え、骨に皮を被せたようでした。
 ウザイルは尋ねました。
「ご老体殿よ、ウザイルの家はどこですか」
 女は泣きながら言いました。
「もう誰も彼を覚えておりません。百年前に出ていって戻って来なかったのです。アッラーが彼を慈しまれますように」
 ウザイルは女に言いました。
「わたしがそのウザイルです。わたしをご存知ではないですか。アッラーがわたしを百年間死なせ、それから蘇らせたのです」
 女は信じず、こう言いました。
「ウザイルは祈りの受け入れられる方でした。アッラーに祈り、あたなを見て誰だかわかるよう、わたしの目が見えて歩けるようにしてみてください」
 ウザイルは、彼女の目が見えるようになり、歩けるようになるよう、祈りました。するとアッラーはこれに応えられ、彼女に視力と力を戻されました。彼女は彼がウザイルだと認めました。そして村中に伝えて回りました。
 本当にウザイルが戻ってきたのです。人々は驚き、彼女の気が狂ったと思いました。賢者たちと学者たちが会合を開きました。その中には、ウザイルの子供の子供もいました。彼の父は既に亡くなり、この孫も八十歳でした。それなのに、祖父のウザイルは四十歳だったのです。
 賢者たちと学者たちは集まって、ウザイルの話を聞きましたが、彼を信じるべきか疑うべきか、わかりませんでした。そこで一人の賢者が尋ねました。
「父祖たちから、ウザイルは預言者であったと聞いています。タウラーが敵に燃やされてしまわないよう、隠したと言います。もしあなたが、ウザイルがタウラーを隠した場所をご存知なら、どこにあるか言ってみて下さい」
 彼は言いました。
「それは簡単なことです。タウラーのことはよく覚えているし、どこに隠したかもわかります」
 そして、彼らを連れてタウラーを隠した場所に行き、取り出しました。頁はもう腐っていましたが、残った部分を頼りに、ウザイルは覚えているままのタウラーを書き起こしました。
 人々は、アッラーがウザイルを百年間死なせ、それから生き返らせたことを信じました。ウザイルは、人々に対する印にして奇跡となったのです。
 ウザイルが亡くなった時、ユダヤ人はその愚かしさと無知からこう語りました。
{ユダヤ人はウザイルを、アッラーの子であるといい 9-30}
 アッラーに讃えあれ、彼はいと高く偉大にして至高なのです。
{言え、「かれはアッラー、唯一なる御方であられる。アッラーは、自存され、御産みなさらないし、御産れになられたのではない、かれに比べ得る、何ものもない」 112-1 – 112-4}