「アサル・エスワド」に続いて、「アルフ・マブルーク(おめでとう)」というエジプト映画日本語字幕をつけ羊動画にアップしました。
「アサル・エスワド」のアフマド・ヘルミー主演による、一つ前の映画です。
「アルフ・マブルーク」は、「アサル・エスワド」と異なり、エジプトそのものをテーマにした映画ではありません。多くのエジプト映画同様、庶民の生活からはかけ離れた世界が描かれていますし、そういう意味でのリアリティはあまりありません。
ただ、映画としてとにかく素晴らしいので、何としても紹介したいとずっと思っていました。エジプト映画だから、というのではなく、一つの作品として非常に良くできています。
証券会社の経理で働くアフマド。かなり暮らしぶりは良く、結婚を目前に控えてイケイケです。しかし自分のことしか考えず、家族のことも顧みず、勝手気ままな暮らしを送っています。
そんな彼が、披露宴当日、式場を目の前にして交通事故に巻き込まれてしまいます。死んだと思ったら、半日前に目覚めた自分のベッドに舞い戻っています。時間を飛び越えたようです。
一体このループにはどういう意味があるのか。定められた死から逃れようと、アフマドの奮闘が始まります。
と、構造としてはありがちな「ループもの」なのですが(これくらいならネタバレじゃない・・・と思います)、とにかくその中身が素晴らしく面白い。エジプト独特のテンポの良いコメディとして大いに楽しめるだけでなく、後半になって明かされる「真相」、そしてラストシーンが、胸に突き刺さります。
最初に見た時からとても気に入って、その後も何度も見ていたので、すっかり頭に入っていると思ったのですが、正直字幕の作業は結構たいへんでした。とにかく、アフマド・ヘルミーが早口の上、主人公のキャラ的によく分からないスラングを乱発します。「クルアーン動物物語」が難易度1だとすると、「アサル・エスワド」が10、「アルフ・マブルーク」が20くらいの感じです。自分のレベルの低さを痛感しました。
最初の頃は「アサル・エスワド」のように言語関係のメモをしていたのですが、途中ですっかり忘れてしまいました。とにかくトリッキーな言い回しやスラングが多すぎて追いつかないです。一応、いくつかのメモだけ最後に付けておきます。
それほど「エジプト独特」な話でもないので、言語以外で特別な解説も要らないかと思うのですが、強いて言えばアフマドが妹の男女関係にやたら敏感で立ち入ってくるのは、日本からすると奇妙に映るかもしれません。一般にエジプトでは、婚前の男女交際はご法度で、婚約者と二人きりでデートするのもよろしくないこととされるので、これくらいの介入度合いは別に変ではありません。
また結婚関係で、アフマドの結婚に親がやたら援助していますが、エジプトでは結婚時に花婿が婚資を支払い、さらにフラット(できれば賃貸ではなく持ち家)を用意するのが当然とされているので、親がローンを組んでマンションを買うこともあります。
また、交通事故にあった老人を病院に担ぎ込むシーンがあり、ここでサインを要求されていますが、エジプトではこういう場合、誰か一人保証人としてサインしないと、救急病院でも治療を受けられません。これはエジプト人の間でも問題視されています。また劇中でもありますが、こういう場合、救急車はなかなか来ないし、待っている間に死んでしまうでしょう。
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「昔ラーミーって呼んでたろ」と言うアフマドに対し、父親が「いや、サウサンだ」と言い返してますが、サウサンは女の子の名前。皮肉を言っているわけです。
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アフマドがعازن(~かと思う、افترض)というスラングを使っていて、それを警官が分からない、という場面です。汚い言葉を使ったのでアフマドは慌ててأزفと言い換えていますが、これは結婚式の行列を歩く意味なので、太鼓を叩くジェスチャーをしています。
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運転手が、アフマドの名前を聞いて「アブー=ハミードだね」と言っていますが、アブー=ハミードはアフマドという名前のあだ名。
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「ラマダーン(タクシー運転手の名前)の夢を見た」というアフマドに対し、カリームが「じゃあ次はハッジ(巡礼)の夢だな」と返しています。ラマダーンを斎戒の月と解した洒落です。