Skypeでエジプトの知人女性と話していて、こんなことを言われました。
「わたしの夢は、自転車で仕事に通うこと!」
何を言っているんだ、と思われるかもしれませんが、エジプト、少なくともカイロでは、自転車は交通手段として一般的ではありません。
カイロの交通事情は、それはもう絶望的に酷いもので、交通秩序なんてないも同然、殺人的な渋滞と排ガス・粉塵で酷い環境です。走っている車のほとんどは、日本だったら絶対に車検を通らないようなポンコツです。これらを一気に解決するのは困難ですし、信号の整備や車検基準の見直し(そもそも車検があるのか、わたしも知りませんが)などもコスト的に難しいでしょうが、自転車を大量導入するだけで大分マシになりそうに見えます。
もちろん、自転車もあることはあります。頭の上にエーシ(パン)を並べた板を器用に乗せたまま自転車で運んでいる人などを見かけることもあります。しかしほとんどの場合、こうした職人系の人が仕事で使っているもので、ほかは子供がレジャー・スポーツとして乗るくらいです。
自転車が普及しない原因として、彼女は二つの理由を挙げましたが、これはまったくわたしも同感です。
①交通・道路事情が悪すぎ、危険である
②女性が自転車に乗ることが「恥ずかしい」ことのような認識があり、乗っていると嫌がらせを受ける
このうち①は、自転車専用レーンの不足等、日本や諸外国でもある程度当てはまることです。もちろん、程度は全くことなります。カイロ市内の道路のほとんどは、一番端のレーンはほぼ駐車場と化しており、車がなければ大体ゴミの山になっています。また、なぜか歩道の段差がやたら高く、自転車でなくて歩いていても不便を感じるほどです。そんな訳で、もともと交通事故が非常に多いのですが、これに自転車が加わればさらに地獄絵図が拡大するのも想像に難くないでしょう。
もう一つの②は、アラブ諸国固有の問題かと思います。アラブ以外でもそうした認識の国々はあるかと思うのですが、少なくともエジプトでは、女性が自転車に乗るのは「みっともない」と受け取られる傾向があります(逆にアラブでもチュニジアなどでは女性が自転車に乗っているのでしょうか?なんとなく許されているような気もしますが、知りません)。
別にサウジにおける女性の自動車運転のように「禁じられて」いるわけではないのですが、なんとなく「みっともない」イメージなのです。
それだけであれば、本人が気にしなければ問題ないのですが、もし(子供ではない)女性が自転車に乗っていたら、間違いなくその辺の若者がはやしたてたり、嫌がらせをするでしょう。もともとエジプトは痴漢が非常に多く、「恥じらいに欠ける」と見受けられる(勝手に受け止めている)行為・服装の女性には何をやっても許されると思っている輩が大勢いますが、自転車などは格好な標的になるでしょう。
わたしは過去に一度だけ、若い女性が路上で自転車に乗っているのを見たことがあります。ただそれは、モハンディシーンという、カイロでもとても高級なエリアでのことで、大衆的なエリアであればまず不可能だったでしょう。ただ逆に言えば、こうした「先進的」な人がカイロでも存在する、ということは、希望ではあります。
こうした認識をどうしたら改められるのか、気が重くなるばかりですが、それでも十年二十年という時間をかければ少しずつ変わっていくのではないでしょうか。エジプト人はテレビが大好きですから、女性が自転車に乗るテレビドラマや映画などを作って、戦略的にイメージを操作していくと有効かもしれません。
先進国でも環境問題的な意識から自転車に乗る人が増えているようですが、むしろカイロのような町でこそ自転車は生きるように思います。根気よくイメージを変えていけば、女性が堂々と自転車に乗れる日もやってくるのではないでしょうか。これは本当に安上がりで良い解決法ですから、何とか実って欲しいものです。