おっちゃんが一人で喋る、お笑い芸人

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 エジプトやアラブ諸国のテレビを見ていると、おっちゃんが一人で延々と喋るタイプの番組が沢山あります。別におばちゃんでもお兄ちゃんでもいいのですが、おっちゃんのことが一番多いです。とくかく独演会形式の番組です。
 宗教関係が典型的ですが、ニュース解説などでもキャスターが延々と一人で喋っていることがよくあります。
 改めて考えると、日本ではこういう形式の番組はほとんど見かけません。放送大学くらいではないでしょうか。昔の筑紫哲也さんのように、ニュース解説者が喋る番組はありますが、時間的にはあまり長くありません。エジプトの宗教番組などだと、独演会で一時間くらいもたせます。
 欧米の事情には疎いのですが、どうなのでしょう。想像ですが、アラブ諸国ほどではないにせよ、日本よりは多いのではないかと思います。
 日本には演説の伝統がない、といったことが時々言われますし、実際、学識があっても喋るのが下手な人が多いです。本来演説の専門家たるべき政治家ですら、あの有様です。
 放送大学は、個人的には大好きですが、アラブ諸国の講義番組に比べると、比較にならない程話がヘタクソです。グッと掴んで引っ張っていく芸のある人には、ほとんどお目にかかれません。
 先日触れたアフマド・アル=ムサッラマーニーというエジプトのジャーナリストは、いつも淡々とニュース解説をしていて、日本であれば図表やテロップ、CGなどで表現するであろう箇所でも、弁舌だけで乗り切っています。これには予算上の問題も多いにあるのでしょうが、すごいスキルではあります。ちなみに、前に地理上の問題を解説するのに、ムサッラマーニー氏が紙切れにペンでヘタクソな地図を書きながら説明していたのは、ちょっと笑ってしまいました。そこは流石に図表を用意すべきでしょう(笑)。

 日本でこの手の独演スキルがある人種を探すとすると、多分一番レベルが高いのは、お笑い芸人という人たちではないかと思います。松本人志さんあたりだったら、一人で一時間喋るだけの番組をやらせても、ちゃんと引っ張っていける気がします。
 日本ではお笑い芸人が妙に尊敬され、そこから映画監督や政治家に転身する人もいますが、これも故なきことではないのかもしれません。あの人達が、一番話が上手いのですから。
 別段話下手だからといって、その人の技量が否定される訳でもないし、話が下手でも優秀な方は沢山いらっしゃいます。でも、話の技術というのは、多分一般に思われているより、ずっと重要ですよ。話の上手い人に引っ張られる人は大勢いますし、自分でそうだと思っていなくても、いざ巧みな弁舌に向きあうと、「こいつならやってくれるかもしれない」となったりするものです。
 独演というのは、頭が良い人でないともたされないし、かつ、ここでの「頭の良さ」は、現実社会の中で臨機応変な対応を迫られた時に必要とされるタイプの「頭の良さ」に比較的近いのではないかと思います。もちろん、そうではない、研究室にこもって淡々と進めていくタイプの「頭の良さ」というのもあるでしょうが、人類の長い歴史の中で一番サバイバルに重要だった「頭の良さ」というのは、弁舌系の「頭の良さ」だったのではないでしょうか。
 まぁ船頭ばっかりいて船をこぐ人がいないエジプトのような社会も、それはそれで面倒かとは思いますが・・・。



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