「良い人」たちと戦うこと、トランプと組むことも辞さないサンダース

 國分功一郎さんが『来るべき民主主義』という小平市都道328号線建設問題を軸に扱った本の中で書かれていますが、いわゆる三権分立のうち、行政は過大なパワーを宿していて、なおかつ一度決めてしまったものを取りやめるのが非常に難しくなっています。もはや誰の得にもならなくなった計画でも、巨大な慣性のようなものが働いてしまい、止めることができないのです。
 この本の中で、道路建設に反対する住民の方が、東京都の担当者に対し「わたしたちは歳をとりました、あなたたちはいつまでも変わらないですね」という場面があります。つまり、都の担当者は数年ごとに変わっていくので、いつまで経っても歳を取らない、ということです。ここにことの本質がよく現れています。一つは、わたしたちがここで対峙している存在とは、「歳を取らないもの」だということ。もう一つは、それが具体的な形をとって現れる時、直接対峙できるのは常に「真面目な公務員」でしかない、ということです。
 外山恒一さんがどこかでお話されていましたが、権力というのは、要するに普通の真面目な公務員だということです。これは非常に重要なことで、私利私欲にまみれた妖怪のような政治家が、女体盛りでもしながら裏でなんでも操っている、というようなお話ではないのです。そうした「悪」と戦うモデルというものが、とりわけリベラルたちの目をいつも曇らせています。そんなわかりやすい悪など漫画の中のお話にすぎない、というだけでなく、そもそもがわたしたちの敵は、職務に忠実な真面目な人々であって、つまり普通の文脈で言えば「良い人」たちなのです。
 この「良い人」たちが集まって、不死のものを動かしています。
 と、言いたいところですが、果たして彼らが「それ」を動かしているのか、ここは非常に慎重にならないといけません。要素還元的に見れば、たしかに「それ」を人が操っているのでしょうが、全体は常に部分の合計以上のものであり、その以上となった上澄みの部分こそ、全体なるものの本性が宿ります。そしてこの上澄みが、遡及的に彼らを動かしているのです。
 システムというのは、所詮は人の作ったものであり、それならば人の力で変えられるはずだ、と、少なからぬ人々が考えます。しかしここに大きなトラップがあります。第一に、仮に人が作ったものだとしても、簡単に変えられるかどうかはまったく別問題であり、さらに言えば、人が作ったものですらないかもしれません。こう言うとオカルトまがいかと思われるかもしれませんが、システム的なもの、不死のものが、人を作ったとも言えるのです。遡及的に、「歳を取らないもの」が創造主のように振る舞います。そういう目で見た方が、すっきりと見えるものというのがあります。
 ハサン中田考先生は、ネイションという偶像を叩き続けていますし、法人概念についても問題にされています。つまりは死なないものが人のような顔をして、偽の創造者としてふるまっている、ということです。ネイションは真面目な公務員と真面目な国民によって成り、法人は真面目なサラリーマンによって成りますが、共に部分の集合以上のもので、部分部分を見れば大勢は「良い人」です。
 要するに、何度も書いているフラットなものと抵抗について言っているのですが、慣性で動き続ける行政、死なずに資本を蓄積する法人、そうしたものに抵抗しようとするなら、「良い人」たちと戦わなければいけない、ということです。むしろ、こっちが「悪」なのです。良い抵抗と悪い抵抗というものはなく、ただ悪い抵抗だけがあります。
 わたしたちの頭数が十分に多く、なおかつほとんどがそこそこ「良い人」である以上、システムが消え去ることはないし、「悪」が支配する世界というのも来ないでしょう。そんなものは最初から目指していません。ただ、大きな流れに対して、文字通り抵抗しているだけです。なぜなら、電子回路の中にある文字通りの抵抗、あるいは散りゆく世界に抗うささやかな秩序、そうしたものが人が生きているということだからです。わたしたちは、世界が十分に見通しが良くならないようにしている、衝立それ自体です。「どうせ死ぬなら生まれてこない方がマシ」というような、超電導に抗う時間、それが生きているということです。
 これはつまり、同じ文章を上から読むか下から読むか、のようなお話で、神様がわたしたちを作ったとも言えるし、わたしたちが神様を作ったとも言えます。わたしたちを作っていない神様については、これは抵抗し滅ぼさないといけません。そうしてみても、やっぱりわたしたちを作った神様は残るでしょう。それについては、どの道勝てる見込みもないし必要もないので、考えなくて大丈夫です。正確に言えば、残ったものが本当の神様です。それは結局残ります。それはともかく、抵抗が先にあるか、システムが先にあるか、それはものの見方にすぎない、ということです。
 わたしたちは常にシステムに組み込まれていて、なおかつフラットな世界というのは「良い人」が働く「良いもの」ですから、これを完全に排除する、などということは不可能です。ただ邪神が調子に乗りすぎているので、それに対しては抵抗します。というより、もう抵抗しないとシャレにならないところまで、少なからぬ人々が追い込まれています。悪いことをすると怒られるので割に合わないのですが、もう失うものが何もないなら、イタチの最後っ屁で抵抗するしかありません。

 米国でドナルド・トランプが勝つような流れにも、似たところを感じます。
 彼のことを嫌いな頭の良い人達は沢山いらっしゃるでしょうが、わたしは正直、トランプが勝って狂喜しましたし、「こりゃあいよいよ面白くなってきた!」と、人生エンジョイしています。
 お断りしておきますが、彼のような男がそばにいたら心底不愉快ですし、あらゆる手段をこうじて直接関わることを避けたいタイプです。品性下劣な男でしょう。少なくとも、個人的には人として大嫌いです。
 彼に投票した人々も、彼を聖人君子だと思っている人はまずいないでしょうし、嫌いなところは沢山あって、それでもギリギリの選択を迫られて一票を投じた、という人が大勢いるかと思います。
 要するに、彼は「悪い人」です。でも、「悪い人」に少し暴れて頂かないと困るところに来ている、ということです。
 とりあえずわたしは、アンチ・グローバリズム、反ウォール街、保護主義、内向き志向、ということだけで彼を支持します。少なくとも、「素晴らしき世界」を作っているヒラリーのような人たちよりはナンボかマシです。
 彼の溢れ出るセクシズム、レイシズムには辟易しますが、戦略として言っているのなら(多分そうでもないのでしょうが)、むしろ正解なのでは、とすら思います。なぜなら、レイシズムは結果であって原因ではないからです。もちろん、骨の髄からのレイシストで、有色人種を切り刻むためならあらゆる労苦を惜しまない、という人も中にはいるでしょうが、大勢の「にわかレイシスト」たちは、何か他に原因があって、その結果として排外主義などに走っているだけだからです。余裕があればわざわざ移民を殴ったりしません。人生にはもっと楽しいことが沢山あって、沢山あるうちは人は面倒なことをしないものです。そして重要なことに、彼ら自身にそうした自覚はありません。なぜなら、バカだからです。でも、人類の大半はバカなので、バカに「お前はバカだからわかんないだろうけれど、移民を殴ってもどうにもならないよ」とか説教しても始まりません。バカにつける薬などありません。そこは一回バカに乗って、バカのご機嫌をとりながらやったら良いのです。結果、原因の方をぶっ叩ければ、バカは飽きっぽいのでそのうち移民も殴らなくなるでしょう。そういうことは、勝ってからやれば良いのです。
 外山恒一さんが最近の文章で、「ヒラリーを支持したサンダースには心底がっかりした、ファシストとは『トランプと組むことも辞さないサンダース』のことだ」といったことを書かれていましたが1、これは久々にグッとくるフレーズでした。わたし自身は、彼と同じく「サンダースとトランプならサンダース、ヒラリーとトランプならトランプ」という優先順位の人間で、かつ外山さんほどにはサンダースに絶望していませんが、おおよそ同じ考えです。そして彼の言う「トランプと組むことも辞さないサンダース」がいるなら、そういう人をこそ応援したいと思っています。トランプのような人間と組めてこそ、ことの本質でもないセクシズムやレイシズムに対して一定の枷を嵌めることができるのです。
 残念ながら、サンダース的な流れというのは、トランプにもヒラリーにも勝てないのでしょう。仕方ありません。それこそ「我々少数派」です。
 そこはどうしもようないので、政治的には、誰と友達になって誰を利用するか、ということでしょう。そういう意味で、サンダースとその支持者たちはまだまだちょっと「良い人」が過ぎて、夢見がちだったのかもしれません。バカにつける薬はないですから、そこは腹をくくらないといけません。
 おそらく近いうちに、日本でもそうした選択が迫られる時が来るでしょう。そういう時に、「トランプと組むことも辞さないサンダース」を推していけるか、そこにわたしたちのような人間がかかっていると思っています。安倍晋三の悪口言ってる場合じゃありません。
 フラットでグローバルな「素晴らしい世界」に辟易していて、なおかつトランプと一杯呑むのは死んでも御免被りたい、という人は、そこら辺で覚悟を決めないといけません。

(文脈がよくわからん、という方は良い抵抗と悪い抵抗などというものはないから順番に読んでみてください)


デルクイ 01─反体制右翼マガジン

  1. サンダースにはがっかりだ  ・・・リベラルってほんとダメ | 外山恒一のWEB版人民の敵 []



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