『イスラーム政治と国民国家―エジプト・ヨルダンにおけるムスリム同胞団の戦略』吉川卓郎

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4779501539イスラーム政治と国民国家―エジプト・ヨルダンにおけるムスリム同胞団の戦略
ナカニシヤ出版 2007-09

 非常に面白いです。
 エジプトおよびヨルダンでのムスリム同胞団の活動を中心に、両国におけるイスラーム主義運動と政治の関わりを具体的に追ったものです。両国の同胞団は、理念上の理想では多くを共有していますが、エジプトでは非合法組織、ヨルダンでは王室と結びついた新政府組織、という政治的位置づけの違いがあります。イスラーム主義運動といっても、現実の政治参加においては柔軟性を見せる必要があり、それがどのような形で展開されているのか、仔細な報告を楽しめます。

 個人的には、やはりエジプト同胞団の活動が非常に面白く、もっとこうした具体的情報を早くに仕込んでいれば(日本語で手に入る!)、と悔やまれるくらいです。
 

(・・・)エジプト同胞団と人民議会の関係を論じてきて当然浮かび上がるのは、「もし同胞団が自由で公平な競争ルールの下で選挙に臨んだ場合、どの程度成長可能なのか」という問いであろう。かつては、民主的な選挙が実施されたらエジプト同胞団が政権獲得勢力となり得るという「予想」や「推測」は珍しくなかった。(・・・)
 しかし「民主的な選挙が実施された場合、おそらくエジプト同胞団は躍進するが、政権を担うほどの勢力にはならない」という予測も多い。例えばカッセムは、エジプト同胞団を現体制のオルタナティブとして真剣に選択する勢力は1000万人程度と見る。バリー・ルービンは、エジプト国民の多くはイスラームの社会への浸透を快く思いつつも私生活の侵害までは望んでおらず、また西洋的文化・価値観が幅広く社会に浸透した結果、同胞団の提唱する社会のイスラーム化に反発する勢力も増加している、と説く。

 これは、実感としても同様に感じます。ムスリム同胞団を支持する勢力は大きいですが、現体制の代替となるほどかというと、そこまで強くはない。支持者たちも、ある意味「非合法で政権の取りようがない」からこそ安心して推せる部分はあるはずで、仮に合法化されさらに大躍進して政権与党になったとしても、現体制を根本からひっくり返すような政策は取りようもないし、支持されないでしょう。
 
 湾岸危機における同胞団の反応について。

一連のエジプト同胞団の対応を巡って、エジプト同胞団内部の組織系統や同胞団関連団体は分裂傾向を見せた。オリヴィエ・ロワによれば、エジプト同胞団内部の親サウディアラビア勢力は労働党の親イラク色を厳しく批判し、またクウェートをはじめ湾岸諸国のムスリム同胞団軽運動は反イラク主義を鮮明にし、中立的な立場にとどまるエジプト同胞団指導部に反発したという。図らずも地域的な状況の差によって「イスラーム主義の持つトランスナショナルな連帯」が裏目に出た、といえるであろう。

 どちらの同胞団についても、現実の政治と向き合う中で、現実的・実際的な性質をすこしずつ獲得していっており、他方、そのためには、トランスナショナルなイスラーム主義、という理想とは裏腹に、地域性を重視せざるを得ません。
 こうした中で、今後のイスラーム主義がどのような形で育っていくのか、気になるところです。



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