映画『LOOPER/ルーパー』を観てきました。
ほぼまったく予備知識なしに見に行ったのですが、結論から言ってかなり面白かったです。予想外でした。
冷静に考えると今ひとつバランスの悪い映画なのですが、そのバランスの悪さが魅力的です。枝葉だと思われた部分に物語がズレこんでいき、なおかつそれなりに伏線が回収される、崩れ具合が絶妙な作品です。もう少し崩れると破綻するし、もう少し真っ当だと普通すぎて、かつ王道映画としてのパワーには欠ける作品になっていたことでしょう。
わたしは余り「ネタバレ」ということを気にしないし、ここで時々映画に触れる時も「ネタバレ」はあるけれどあっても問題ない、という書き方をしているつもりですが、この映画については、知らないで行った方がより面白いかと思いました。わたし自信が全然知らずに行ってびっくりしました。
というわけで、一応以下は、気にされる方は読まないで下さい。
わたしが唯一聞いていた予備知識は、一緒に行った人が言っていた「AKIRAっぽいらしいよ」という言葉だったのですが、最初は「どこがAKIRAやねん」と思っていました。あぁ、そういうことですか・・。
よくよく考えると、あのTKのネタはなくても成り立つ映画です。ちょっと強引すぎるし、何か別の道具立ててあの子供が特殊性を帯びる設定にした方が、よりバランスがよくなっていたことでしょう。
でもそのバランスの悪さが面白い。
要するに何の映画なのかよく分からない。誰が主人公なのかもはっきりしない・・ということはないにせよ、今ひとつボケている。そんな調子なのに、最後まで飽きずに見られるところがイイです。
良いところは沢山ありますが、まずあの子供が最初に「サラはお母さんじゃない」と言い出す場面(ちなみに、アレはサラ・コナーを意識しているのでしょうね・・)。あそこは普通に怖いです。枝葉が急に拡大していく展開というのは、ああいう不気味さです。
また、TKの小ネタ、空飛ぶバイクなどの小道具について、一応伏線が貼られていて、そこそこ回収されているところも良いです。時計についても印象的です。
タイムトラベルものは厳密に考証などしていくとどこかでボロが出るものでしょうし、そんな細かいところは個人的にはどうでもいいです。それより、傷を作ってメッセージを伝える等が演出として光っています。「呼び出された」ブルース・ウィリスが「もっと短い名前のウェイトレスがいる」という場面も素敵です。
P.K.ディックっぽいサイバーパンクな世界ですが、サトウキビ畑が舞台となる時間が結構長いのも素晴らしいです。あの手の未来都市は、いい加減食傷気味になっているところがあり、よほど新奇なところがあるか、徹底して作りこまないと、安っぽいばかりになります。その点、サイバーパンクで勝負せず、サトウキビ畑でパッと現れた人間をズドンと撃つ、あの変な間を貴重低音にしているのは正しいです。
しかし何よりこの映画を救っているのは、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットの演技でしょう。
特にマフィアのボスのような男に呼び出され、結局友人を売ってしまう場面。あのへつらったような笑みが非常に胸に入ってきます。
彼は大義によって動いている訳ではないですし、かといって徹底して利己的にクールに振舞っている訳でもありません。「殺したほうがいい」と分かっていても、イザとなると腰が引けるし、要するに普通の人間、普通の小悪党です。その辺の中途半端さというのが、ラストの展開にもつながっていて、その中途半端さをテンションとして引っ張っていけているのは、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットの芝居あってのことでしょう。
あのラストには少し釈然としないものがあるし、ベストのオチだったとも思わないのですが、あんな強引なエンディングでもそれなりに納得し感動できるのは、それまでの主人公の中途半端さがあったからではないかと思います。
どうでもいいことですが、未来のブルース・ウィリスが捕まる時、あの中国人の女が撃ち殺されていたと思うのですが、未来ではそうそう殺しはできない設定なのではなかったのでしょうか。あれは不慮の事故だったのでしょうか・・。