イブラーヒーム(彼の上に平安あれ)

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 遠い昔のこと。人々は、金や特別な品に傅くより前、偶像と王たちを崇拝していました。
 人間は地上に、代理人として、地上の主人としてやって来て、その知性は現世を支配し、生を統べる手段となります。しかし人間の問題は、人々がアッラー以外を崇拝すると、自らの手で知性の光を消すことになり、生を貶めてしまう、ということです。これが怒る時、世界の苦しみは増し、地上の生は悪辣で冷酷な地獄となり、子供たちは苦しむようになるのです。
 もしアッラーが人々に預言者たちをお送りにならなかったら、それも公正なことでしょう。健やかなる本性が人をその主に導くのです。しかしアッラーは、慈悲と寛大さと好意から、預言者たちをお送りになりました。アッラーの預言者たちは、名前や性格、奇跡や置かれた状況に違いはありますが、ただ一つのことで一致しています。彼らはみな、人々に慈悲を送り届けるのです。
 (我らの主)イブラーヒームは、讃えある至高なるアッラーが人々に送った真の慈悲でした。
 彼の父は彼が子供の頃に亡くなり、叔父に育てられたと言われています。彼が父代わりで、父のように呼んでいました。この父は偉大な彫刻家で、神々の像を作っていました。皆がこの翁を尊敬しており、彼は人々のために石や木から彫像を作りました。
 この変わった家族の中で、イブラーヒームは幼年時代を過ごしました。
 彼は幼年期から、聡明な子供でした。
 アッラーは、慈しみと慈悲、知恵と愛をもって、彼の幼年期よりその心と知性を照らしていたのです。
 イブラーヒームは、子供の頃から、父が奇妙な像を作っていることを理解していました。ある日何を作っているのか尋ねたところ、神々の像だと教えて貰えました。イブラーヒームは驚き、その知性の奥で、受け入れがたいと感じました。彼は子供時分、人がロバや馬の背に乗るように、この像の背中に乗って遊んでいました。ある日父が、マルドゥク神の像の背に乗っているのを見つけて怒り、二度とその像で遊んではならないと命じました。
 イブラーヒームは尋ねました。
「お父さん、これは何の像ですか。耳がとても大きいです。僕たちの耳より大きいくらいだ」
 父は言いました。
「息子よ、これは主人の中の主人、マルドゥクだ。この大きな耳は、彼の深い理解を象徴しているのだ」
 イブラーヒームは笑いました。ロバの耳はマルドゥクのように大きいですが、ロバのような耳の像をどうして人が拝みましょうか。
 日々が過ぎ、イブラーヒームは大きくなりました。そして、父の作っている像にはっきりとした嫌悪を抱いていることを感じました。彼には、知性ある人間がどうして像などを作り、さらにその手で作った像サジダしたりするのか、理解できませんでした。像が飲まず、食べず、話さず、誰かにひっくり返されたら元に戻ることもできないことをわかっていました。どうして人々は、この像が害したり益したりするなどと考えるのでしょうか。
 この考えが、イブラーヒームを長いこと苦しめました。
 民のすべてが間違いを犯していて、彼一人だけが正しいなどということがあるでしょうか。
 これは驚くべきことではないですか。
 イブラーヒームの民には、像で埋め尽くされた寺院がありました。
 寺院の真ん中には、一番大きな神々の像が収められたくぼみがありました。神々には様々な種類、型、形がありました。イブラーヒームは子供の時、父親と一緒にこの寺院を訪れたことがありました。これらの木切れや岩に、彼は大いに蔑みを覚えていました。驚くべきは、人々、つまり彼の民が、寺院に入ると頭を下げ、お辞儀をしていたことです。そして、あたかも像が言葉を聞き理解できるかのように、泣いてお願いごとをしていたのです。
 最初、この光景は、イブラーヒームには可笑しなものに見えました。それから彼は、怒りを感じるようになりました。これらすべての人々が騙されているなんて、不思議なことではないですか。
 イブラーヒームの父親が、彼が大きくなったら神官になって欲しいと思っていたことで、問題は大きくなりました。彼の父親は、イブラーヒームに、これらの像を尊ぶ以上のことを何も望んでいなかったのです。しかしイブラーヒームは、像に対して嫌悪と軽蔑を表すのを止めませんでした。
 ある日、イブラーヒームは、父と共に寺院を訪れました。
 像の奉納式が始まりました。式の途中で大神官たちがやって来て、偉大な神々の像に話を始めました。神官は重々しい声で、民に慈悲と恵みをもたらすよう、像にお願いしたのです。
 神官のお祈りの最中に、イブラーヒームの声が寺院の静寂を破りました。
「神官様、それは何も聞いてはいませんよ。気がつかないのですか?」
 人々が少年の方を振り向き、それがイブラーヒームだと気付きました。大神官らは大いに憤慨し、父親は彼が病気なのだと言って謝りました。何を言って良いやらわかりませんでした。二人は寺院を出て、父親はイブラーヒームを寝床に連れて行って寝かしつけました。

 人々が眠りにつくと、イブラーヒームは安心して寝床から抜け出しました。彼は病気などではありませんでした。素晴らしい発見が近づいているのを感じました。アッラーが、民の作ったあの木の玩具や石像であるなどというのはあり得ないことです。イブラーヒームは家を出て、山に向かい、一人で闇を進んでいきました。そして一つの洞窟を選ぶと、背を石に預け、座って空を見上げました。輝く星が見えました。彼は独り言を言いました。この星々が神々だというのは有り得るだろうか? 星が消えるまで、イブラーヒームは考え事を続けました。それからイブラーヒームは言いました。星は沈んでしまった、消えてしまった。消えてしまうものは好きになれない。神が現れては消えるなどというのは不可能だ。これは神ではない。
 月が現れました。雲の間からのぼり、地上と山々と村を照らしました。イブラーヒームはつぶやきました。月が神だというのはあり得るだろうか?
 月が沈むまで、考え事を続けました。そして、月が神だというのはあり得ない、と悟りました。消えてしまうものは違う。真のアッラーは決して消えることはない。
 同じところにいると、朝がやって来て、太陽が登りました。
 この太陽は、昨日見た月や惑星や星よりも大きい。太陽こそが主なのだろうか?
 ずっと待っていると、昼がやってきて、午後となり、日没が来ました。月や他の星や惑星が沈んだように、太陽も沈んでしまいました。そして、アッラーが導いているのでなければ、やがて太陽も道を失ってしまう、と悟りました。同じ場所のままで、彼は、月や星や惑星の背後にあるものについて思いを巡らせました。月や星や惑星の創造者について考えました。それは民が崇拝しているものとは無縁だ、と感じました。
 偉大な光が心に入り込み照らすのを感じました。
 アッラーの慈悲が明らかになっていきます。創造主が彼に話しかけました。
「イブラーヒームよ」
 イブラーヒームは言いました。「何なりとお申し付け下さい(ラッバイカ)、主よ」
 アッラーはは仰いました
{服従、帰依しなさい 2-131}
 イブラーヒームは、サジダし涙を流しながら地に伏し、言いました。
{わたしは、万有の主に服従、帰依します 2-131}
 安らぎと平和と尊厳が、彼の心を満たしました。イブラームは深夜まで万有の主にサジダし、それから家に帰りました。
 ことは成し遂げられ、彼の主が彼を導きました。
 イブラーヒームの生活で、新しいページが始まりました。

 イブラーヒームは民の元に呼びかけに出かけ、父や民の人々に語りかけました。
{あなたがたが崇拝するこれらの偶像は、何ものであるのか 21-52}
{かれらは言った。「わたしたちは、祖先がそれらを崇拝するのを見ました。」 21-53}
{かれは言った。「あなたがたとあなたがたの祖先は、明らかに誤っていたのである。」 21-54}
{かれらは言った。「あなたは真理を齎したのですか。それとも戯れる者なのですか。」 21-55}
 イブラーヒームは言いました。
{そうではない。あなたがたの主は、天と地の主。(無から)それら(天地)を創造された方である。そしてわたしはそれに対する証人の一人である 21-56}
 こうして、民とイブラーヒームの間で論争が巻き起こりました。一番驚き怒ったのは、彼を父のように育てた叔父でした。
 父は論争に加わり、彼らの間を考え方の違いが引き裂きました。息子はアッラーに、父は偽りにつきました。
 父が息子に言いました。「イブラーヒームよ、何たる不幸か。何という仕打ちをするのだ」
 イブラーヒームは言いました。
{父よ、あなたは何故聞きも、見もしないで、また僅かの益をも与えないもの(木石の偶像)を崇拝なさるのか/父よ、あなたが授かっていない知識が、今、確かにわたしに下った。だからわたしに従いなさい。わたしはあなたを正しい道に導くでしょう/父よ、悪魔に仕えてはなりません。本当に悪魔は慈悲深き御方に対する謀叛者です/父よ、本当にわたしは慈悲深き御方からの懲罰が、あなたに下ることを恐れます。それであなたが、悪魔の友になることを心配しています 19-42 – 19-46}
 父は立ち上がり、怒りに震えました。
 激昂しながらイブラーヒームに言いました。
「イブラーヒームよ、お前はわたしの神々を信じないのか? 呼びかけをやめないなら、お前に石を投げることになる。石で打ち付けて殺すのだ。それが神々に逆らった者への報いなのだ。我が家から出て行くがいい。お前を見たくない、出て行け」
 父に追い出され悪し様に扱われましたが、イブラーヒームは敬虔な息子で、偉大な預言者でした。父親に対し、息子として、預言者としての礼をもって語りかけ、軽侮と暴力、勘当に対し、こう応えました。
{あなたに平安あれ。わたしの主に、あなたのため御赦しを祈る 19-47}
 イブラーヒームは父の家を出て、アッラー以外を崇拝する民の元を去りました。そして一つのことを決めました。川の反対側で大きな祭が催され、そこにすべての人が集まることを知っていたのです。祭りが始まり街の住民が皆いなくなるのを待ちました。
 イブラーヒームは、寺院で演説しようと、注意しながら出かけました。
 寺院に向かう道には誰もいませんでした。寺院にも人がいませんでした。皆祭りにイッてしまったのです。イブラーヒームは、鋭い鋤を持って寺院に入りました。
 岩や木から掘られた神々の像を、彼は眺めました。像の前には、供え物や贈り物として食べ物が置かれていました。イブラーヒームは一つの像に近寄り、尋ねました。
「あなたの前の食べ物はもう冷めてしまっています。なぜ食べないのですか?」
 像は黙ったままでした。
 イブラーヒームは、周りの多くの像に尋ねました。
{あなたがたは食べないのですか 37-91}
 像が食べないことはわかっていたし、それを軽侮してもいました。彼はまた像に尋ねました。
{あなたがたは、どうしてものを言わないのですか 37-92}
 彼は鋤を振りかざし、人々が崇拝している偽の神々を壊し始めました。すべての偶像を壊し、一つの偶像だけ、その首に鋤を突き刺したままにしました。こうして誓いを果たした後、彼は家に帰りました。彼は、アッラー以外を崇拝する民の愚かしさに対し、動かぬ証拠を突きつけると、誓っていたのです。
 対岸での祭りが終わり、人々が帰ってきました。最初の一人が寺院に入るや否や、叫び声を上げました。叫び声に人々が集まると、神々がただ一つを除いてすべて壊されているのを見つけました。そして誰がこれをやったのか、考え始めました。
 彼らの脳裏に、アッラーについて話し、呼びかけていたイブラーヒームの姿が浮かびました。
{わたしたちは、イブラーヒームという若者が、その方々を批判するのを聞いた 21-60}
「すぐにイブラーヒームを連れてこい、彼を問い詰めるのだ」
 こう首長が言いました。
 イブラーヒームが連れてこられ、こう尋ねられました。
{イブラーヒームよ、あなたなのですか。わたしたちの神々に対しこのようなことをしたのは 21-62}
 イブラーヒームは微笑み、首に鋤のひっかかった大きな神を指し、言いました。
{いや、いや、それらの中のこの大きい(偶像)がそれをしたのです。かれらが口が利けるものなら聞いてみなさい 21-63}
 神官は言いました。「誰がやったか聞いているのだ」
 イブラーヒームは言いました。「あなたたちの神々に聞いてみなさい」
 取調官が言いました。「神々が喋らないことは知っているだろう」
 イブラーヒームは言いました。「喋りもしないものをどうして崇拝するのでしょう。益も害もないものを。少しでも考えたことがありますか。あなたがたの知性はどこへ行ってしまったのですか。あなたがたの神々を壊しても、大きな神はただ見ているだけでした。この神々は、自分を守ることもできないのです。どうしてあなたがたに恵みをもたらせましょう。少しは考えないのですか。首に鋤がひっかかったまま、何故こんなことをするのか、とも言いません。話しもせず聞きもせず、見もせず、害も益もありません。どうして人間が石にかしずくのでしょう。知性はどこへ行ったのですか」
 取調官は激怒し、人々は叫びました。「彼を火あぶりにしろ、神々を助けるのだ」。こうして火あぶりの判決が下され、イブラーヒームは捉えられました。

 イブラーヒームの火あぶりの準備が始まり、知らせが王国全体に広がりました。
 神々に歯向かい壊し、それを認めた上神官を嘲笑った者への罰を見に、村や山や町から人々がやって来ました。
 大きな穴が掘られ、木切れや薪で一杯にされ、火が放たれました。イブラーヒームを穴に投げ込むための、大きな石弓が持ってこられました。手足を縛られたイブラーヒームが、石弓に置かれました。穴の中で火が燃え上がり、炎が天高く伸びました。炎の熱さに、人々は遠くから見守っていました。大神官が、イブラーヒームを火に投げ込むよう命じました。
 ジブリール(彼の上に平安あれ)が彼の頭の脇に立ち、言いました。
「イブラーヒームよ、何か欲しいものはあるか」
 イブラーヒームは言いました。「アッラーのご満悦より他に望むものはありません」
 石弓が発射され、イブラーヒームは火の穴に放り込まれました。
 至高なるアッラーは、火に命じられました。
{火よ、冷たくなれ。イブラーヒームの上に平安あれ 21-69}
 すると火は従い、冷たくなり、イブラーヒームの上に平安が降りました。枷だけが燃え落ちました。
 イブラーヒームは、まるで美しい庭園の真ん中にいるように、火の中で腰掛けました。
 彼は、アッラーとその代理人の恵みを讃え、賛美していました。最初から彼は恐れていませんでした。
 アッラーに仕えるものは、何ものも恐れないのです。力はただアッラーの手によるのみです。イブラーヒームが火の真ん中に消え、火が消えて、人々は大きな叫び声をあげました。人々が立ち去る前に、イブラーヒームは入った時と同じように、何事もなかったかのように穴から出てきました。その顔は光と尊厳に輝いていました。服もそのままで燃えていませんでした。火の跡も煙の跡も何もありませんでした。
 イブラーヒームは、美しい庭園から出てきたかのように、火から出てきました。
 驚きの声があがりました。
 イブラーヒームは、何も傷つくことなく火から出てきたぞ・・。
 彼は満足気に微笑んでしました。奇跡の知らせが、山々を、砂漠を、町を、村を駆け巡りました。人々はこの話題に夢中になり、互いに尋ねあいました。皆が、イブラーヒームの神が彼を救ったと言いました。
 国の王は、その権威が脅かされていると感じました。王は、自分を神だとしていたのです。王はイブラーヒームの奇跡を聞き、彼を連れてくるように命じました。イブラーヒームは、王のもとを訪れました。
 王はイブラーヒームに言いました。「お前が新しい神に呼びかけた、と聞いたが」
 イブラーヒームは言いました。「新しい神と古い神というのがいるのですか? ただアッラーより他に、神はおりません」
 王は言いました。「お前の主にできて、わたしにできないことはなんだ」
 王は高慢で、嫉妬の病に冒されていました。人々が彼に傅くことで、ますます高慢で嫉妬深くなっていました。イブラーヒームは王の話を聞き、すべてを理解しました。そこで静かに、彼はいいました。
{わたしの主は、生を授けまた死を賜う方だ 2-258}
{かれは「わたしも、生を授けまた死を与える」と言った 2-258}
 イブラーヒームは、王がどうやって生を授け死を与えるのか、問いませんでした。嘘だとわかっていたからです。王はまた言いました。
「わたしは人を道に走らせ、殺すことができる。これに対する死刑を免除することもできるし、死から救うこともできる。だからわたしは、生も死も操ることができるのだ」
 王の言葉の単純さにイブラーヒームは微笑み、自分自身に悲しみを感じました。しかし彼は、王が自分の能力に幻想を抱いていて、本当はそんなことができもしない、と分からせたいと思いました。
{イブラーヒームは言った。「アッラーは、太陽を東から昇らせられる。それであなたは、それを西から昇らせなさい」 2-258}
 王はイブラーヒームの挑戦を黙って聞いていましたが、預言者の言葉が終わると唖然としました。無力さを感じ、何も応えられませんでした。イブラーヒームは、彼が嘘つきだと証明したのです。彼に、アッラーは太陽を東からもたらす、と言いました。それなら、太陽を西からもたらすことは可能でしょうか? まことに存在には秩序と法があり、これに従って動くのです。アッラーの創造された法は、いかなる被造物にも支配することはできません。もし王が、彼が神であるという訴えを固守するなら、ものの秩序と法を変えられなければなりません。
 王はこの時、無力さを感じ、挑戦に対して何も言えず、何を言いどうすれば良いのやらわかりませんでした。
 イブラーヒームは王の宮殿を去り、彼を羞恥の海に溺れるままにしました。
 イブラーヒームの名声は、王国中に広がりました。人々は奇跡と炎からの生還を語り合い、王のもとでの出来事を話し、いかにして王を黙ら、何も言えないようにしたか語りました。イブラーヒームは、至高なるアッラーへの呼びかけを続けました。民を導くべく尽力し、あらゆる手段を使って彼らを説得しようとしました。民への彼の愛と熱意にも関わらず、民は怒り、彼を攻撃しました。彼を信じたのは、たった一人の男と女だけでした。女はサーラと言い、後に彼の妻となりました。男はルートと言い、後に預言者となりました。誰も呼びかけを信じないことを悟ったイブラーヒームは、土地を移ることを決めました。
 移住の前に、イブラーヒームは父親に信仰を呼びかけましたが、彼がアッラーの敵だとわかっただけでした。彼には信仰への意志がなく、関係を断つことになりました。
 預言者の物語で、このような出来事に出会うのは二度目です。
 ヌーフの物語では、父が預言者で、子が不信仰者でした。イブラーヒームの物語では、父が不信仰者で、子が預言者でした。この二つの物語で、信仰者は、父であれ子であれ、アッラーの敵に対する無垢を示すことを、わたしたちは目にしました。あたかも、アッラーがこの物語を通じ、人々を結びつける唯一の望ましい関係とは、生まれや血ではなく信仰である、ということをわからせようとしているかのようです。
 イブラーヒーム(彼の上に平安あれ)は国を出て、移住の旅を始めました。
 ウルと呼ばれる町、そしてハーラーンという町に旅し、それからパレスチナに向かいました。彼は妻と一緒でした。彼女は彼を信じる唯一の女性でした。また、ルートも一緒でした。彼を信じる唯一の男性でした。

 パレスチナの後、イブラーヒームはエジプトに向かいました。この時、この旅の間中、彼は人々にアッラーへの崇拝を呼びかけ、その道の為に戦い、弱者と貧者につくし、人々に公正に接し、彼らを真理と真実へと導きました。
 彼の妻サーラには、子がありませんでした。エジプトの王は、彼女にエジプト人の女性をあてがい、世話をさせていました。イブラーヒームはもう年老いていて、その髪もアッラーへの呼びかけの歳月で白くなっていました。サーラは、彼女とイブラーヒームだけでは寂しいと思っていましたが、彼女は子を産むことがありませんでした。ハージャルという名の、このエジプト人の女性を妻としてとらせたらどうでしょうか。こうして、サーラはハージャルを夫に妻としてとらせ、ハージャルは最初の子を生みました。父親は彼をイスマーイールと名づけました。
 サーラの犠牲と夫への愛、アッラーへの信仰とドゥアーとサラーに、アッラーは報い、彼女がその夫(彼の上に平安あれ)と同じくらい年老いていたにも関わらず、(我らの主)イブラーヒームの別の子、イスハークを産むことになりました。
 この間ずっと、イブラーヒーム(彼の上に平安あれ)は呼びかけを広め、アッラーに近づき崇拝しました。讃えあるアッラーが
{イブラーヒームを親しい友にされた 4-125}
ほどです。親しい友とは、最も愛される者、愛において最大の者のことです。
 イブラーヒームがアッラーに訪ねると、アッラーは愛をもってお応えになりました。
 イブラーヒームは、人間が死においても滅びることはなく、審判の日に再び蘇らされ、自らの行い(ヒサーブ)とそれに対する報奨(サワーブ)に向き合うことになる、とわかっていました。イブラーヒームは、いかにしてアッラーが死者に命を与えるのか、知りたいと思いました。
{主よ、あなたは死者をどう甦らせられるのかわたしに見せて下さい 2-260}
 アッラーは預言者にお尋ねになりました。まだ{あなたは信じないのか 2-260}。彼は真の信仰者でしたが、ただその奇跡を、心を安らがせ信仰を増すために知りたいと思ったのでした。至高なるアッラーは四羽の鳥を捕まえて殺し、それを山々にばらまくよう命じられました。それから鳥を呼ばれると、元通りの生きた鳥が、殺されも山々にばらまかれることもなかったかのように戻ってきました。イブラーヒームはアッラーの命じられたことを行い、一時間前に殺された鳥が生き返り、飛んで彼に胸に戻ってくるのを見たのです。

 ある朝イブラーヒームは目を覚ますと、妻のハージャルに命じ、息子に長旅の準備をさせました。その数日後、妻ハージャルとまだ赤子だった息子イスマーイールとの旅が始まりました。
 イブラーヒームは農地を進み、それから砂漠、そして山々が続き、ついにアラビア半島の砂漠に入りました。イブラーヒームが目指したのは、作物も実も木も食べ物も水も飲み物もない涸れ川でした。その涸れ川には、生命を示すものは何もありませんでした。イブラーヒームは涸れ川に着き、動物の背から降りました。妻と息子を下ろし、袋と共に彼らをそこに残しました。袋にはいくらかの食べ物と、やっと二日分程度の水しか入っていませんでした。彼は向きを変えて、その場を去りました。
 妻はその後ろを追い、彼に言いました。
「イブラーヒーム、どこへ行くのですか。何もないこの涸れ川にわたしたちを置いていくなんて」
 (我らの主)イブラーヒームは、何も答えず進み続けました。彼女は同じことをまた言いましたが、彼は黙ったままでした。とうとう彼女は、彼が自分でそんな振る舞いをしているのではない、ということに気付きました。アッラーがそのように命じられたのだ、と理解したのです。
 そこで彼女は尋ねました。「アッラーがそのように命じられたのですか」
 イブラーヒーム(彼の上に平安あれ)は答えました「そうだ」
 偉大な信仰者たる妻はこう言いました。「アッラーと共にある限り、わたしたちが迷うことはありません。彼こそあなたにそのように命じた者です」
 イブラーヒームは、彼らが山の陰に隠れるまで進みました。それから立ち止まり、その気高き両手を天に掲げ、アッラーに呼びかけました。
{主よ、わたしは子孫のある者をあなたの聖なる館の側の耕せない谷間に住まわせました 14-37}
 アッラーの家はまだ建てられていませんでした。カアバはまだありませんでした。この曖昧な振る舞いの中には、高き叡智があったのです。母と共にこの場所に残された稚児イスマーイールこそ、後に父と共にカアバ建設の責を負うことになるのです。アッラーの叡智は、この涸れ川に文明をもたらすことを決めていました。そこにアッラーの家を建て、礼拝において皆がそちらを向くことを。

 イブラーヒームは妻と乳飲み子を砂漠に置いたまま、再びアッラーへの呼びかけに戻りました。イスマーイールの母は、彼に乳をやりながら、乾きを感じていました。太陽は熱く焼けつくようで、ますます乾きはひどくなりました。食べ物も底を尽きていて、事態は困難を極めていました。
 イスマーイールが、乾きで泣き始めました。母は彼をおき、水を探し始めました。サファー山に着くまで歩き、そこに登り、太陽から目を守るために額の上に手をかざし、目を細めて井戸か人間か隊章がいないか、感じ取ろうとしました。
 そこには何もありませんでした。
 急いでサファー山を降り、涸れ川に着くと、懸命になってそれを越え、マルワ山まで辿りつきました。そこに登り、誰かいないか探しましたが、誰も見つかりませんでした。
 母が子供の所に戻ると、激しさを増した乾きで泣いていました。サファー山へ急ぎそこで立ち止まり、またマルワ山へ急いでその上から見回しました。二つの小山の間を、七回往復しました。七回行ったり来たりしたのです。このことから、巡礼をする人はサファー山とマルワ山の間を七回往復し、祖先の母と偉大な預言者イスマーイールに想いを馳せるのです。
 七回目から戻ると、彼女は困憊し疲れきり喘いでいました。息子の脇に腰掛けると、彼は乾きと沢山泣いたことで声を枯らしていました。
 正にこの不幸な時に、アッラーの慈悲が彼女に届いたのです。イスマーイールが泣きながら足で地面を蹴ったところ、その足の下から、ザムザムの泉が湧き出したのです。
 泉から水が吹き出しました。
 子供と母の命は救われたのです。
 母はアッラーに感謝しながら、手で水をすくい飲み、子供にやりました。この地に生命が広がっていきました。
 彼女の思いは真実だったのです。「アッラーと共にある限り、わたしたちは迷うことはありません」
 いくつかの隊章が、この地に留まるようになりました。水が人々を惹きつけ、文明がこの場所に翼を広げました。イスマーイールは少し大きくなっていました。
 父イブラーヒーム(彼の上に平安あれ)が訪ねると、アッラーはイスマーイールに預言者の道を開いており、彼を育て、預言者としての教養を与えていました。イブラーヒームは、我が子を他に例を見ないほどに愛しました。アッラーは彼に偉大なる試練を与えることを望まれ、眠っている彼に夢で啓示を与えました。彼は自分がイスマーイールを殺しているのを見ました。預言者の夢は真理です。つまり、これはアッラーに実行を命じられた、ということなのです。
 イブラーヒームはイスマーイールに言いました。
{息子よ、わたしはあなたを犠牲に捧げる夢を見ました。さあ、あなたはどう考えるのですか 37-102}
 高貴なる息子は言いました。
{父よ、あなたが命じられたようにして下さい。もしアッラーが御望みならば、わたしが耐え忍ぶことが御分りでしょう 37-102}
 このようにして息子は父に従い、父は創造主に従い、偉大な試練を乗り越えるべく、共に出発しました。
 父が息子を殺す場に到着しました。イブラーヒームはイスマーイールを地面に寝かせ、ナイフを抜き、それを宙にかざしました。それが息子の首に振り下ろされる前に、アッラーはやめるように命じられ、息子を{大きな犠牲 37-107}で贖いました。大きな雄羊で贖ったのです。父と子の悲しみは、喜びに変わりました。
 アッラーは彼らに満足され、慈悲をかけ尊ばれました。そして、父がその主に従ったこの日を、地上のムスリムたちが祝うイードとされました。この日にイードの犠牲獣を屠り、明証としての物語を記念するのです。そこに登場する者は、人間としての完全さ、アッラーの愛、その命令に伏すること、その最高の手本なのです。

 この時まで、地上の人々には偉大な寺院がありませんでした。偶像を祀る寺院があちこちにあるだけでした。これらの大寺院は意味もなく作られていたのです。至高なるアッラーは、イブラーヒームとイスマーイールにカアバ建設を命じられました。そこを時を超えた地上でのアッラーの家とするために。イブラーヒームとイスマーイール(彼らの上に平安あれ)は、創造者の命令を実行に移し始めました。カアバの建設を始めたのです。近くや遠くの山々から木を切り出し、地面を深く掘り基礎を作りました。日が経ち、月が経ち、壁は高く聳え立っていきました。これは、人々のために建てられた最初の家でした。地上で最も誇り高き場所で、これからもそうあり続けます。イブラーヒームは、巡礼や小巡礼する人がタワーフを始める印をカアバにもうけようとしまし、カアバとは異なる色の石を探しました。天使が彼に黒い石を運んできて、イブラーヒームが受け取りました。それを家の場所に置いたのです。
 こうして家、聖なるアッラーの家の建設が終わりました。アッラーはその聖なる家を誇り、人々に巡礼を命ぜられました。そして、その周りをタワーフし、許しを乞うことを命ぜられました。
 アッラーは、そこでの礼拝を、他のマスジドでの礼拝十万回より素晴らしいものとされました。イブラーヒームとイスマーイールは、カアバを建設している時に、こうアッラーに呼びかけました。
{主よ、わたしたちから(この奉仕を)受け入れて下さい。本当にあなたは全聴にして全知であられる/主よ、わたしたち両人を、あなたに服従、帰依する者〔ムスリム〕にして下さい。またわたしたちの子孫をも、あなたに服従、帰依する民〔ウンマ〕にして下さい 2-127 – 2-128}
 アッラーは彼らの呼びかけ(ドゥアー)に応えられました。イブラーヒームは、わたしたちをムスリムと呼んだ最初の人でした。

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