フード(彼の上に平安あれ)

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 何年もの歳月が流れ、父祖と預言者たちは去り、預言者の息子たちがやって来て、人々はヌーフの遺言を忘れ、偶像崇拝にもどっていました。唯一のアッラーへの信仰から外れ、古い誤ちを執り行っていました。ヌーフの民の子孫は言いました。アッラーが洪水から救った父祖たちを忘れたくない、と。そこで生き残った人々の像を記念として作りました。この畏敬が世代を重ねる度に大きくなり、ついには信仰となり、像はシャイターンによりアッラーと並べられる神となってしまったのです。再び地上は、悪に苦しむようになり、アッラーは(我らの主)フードをその民に遣わされました。
 フードはアードという名の部族の一員でした。アードは、アフカーンと呼ばれる地に住んでいました。そこは急な砂山だらけの砂漠で、海に面していました。その住居は、巨大な聳え立つ柱を備えた天幕で、アードの民は、強靭な肉体と長身で、その時代の最も偉大な民でした。その深遠さと強さは、アッラーが次のように語る程でした。
{「誰が、わたしたちよりも力が強いのでしょうか。」などと言った 41-15}
 この時代、彼らより強い者はいませんでした。その肉体が強靭な一方、知性は冴えず、偶像を崇拝し、これを守りこのために戦争し、互いに責めたり嘲笑しあったりしていました。
 フードは彼らに言いました。
{わたしの人びとよ、アッラーに仕えなさい。あなたがたには、かれ(アッラー)の外に神はないのである 7-65}
 同じ言葉を、どの使徒も口にされています。変わることなく、減らしも増やしもせず、恐れず尻込みすることもなく。たったひと言が、勇気であり、それだけが真理なのです。
 民は彼に尋ねました。お前はそう呼びかけて、我々の主人になりたいのか? どんな報酬が欲しいんだ?
 フードは、報酬はアッラーの元にある、と語りました。彼は、何も求めず、ただ彼らに知性を真理の光により清めて欲しかっただけなのです。彼は、アッラーの恵みについて話して聞かせました。いかにしてヌーフの後を継ぐものとされたのか、いかに彼らに頑強な身体を与えられたのか、いかに豊穣な地に住まわされたのか、いかに地に生を与える雨を降らせるのか。フードの民は周りを見回し、自分たちが地上で一番強いと思いました。彼らは尊大になり、ますます頑迷さを増しました。
 彼らはフードに言いました。父祖たちが崇めた神々を、どうしてお前は責めるのか。
 フードは言いました。父祖たちが間違っていたのです。
 民はフードに言いました。フードよ、死んだ後、塵となり風に吹かれ、それからまた蘇るというのか?
 フードは言いました。審判の日に蘇り、アッラーは一人ひとりに何を為したか問うのです。
 民は言いました。アッラーが我々の中から人間を選び出して啓示を与えるというのは、奇妙なことではないか?
 フードは言いました。それの何が奇妙なのだ? アッラーは汝らを愛しておられ、それ故にこそ警告されるのだ。ヌーフの方舟とその物語は、そんなに遠い出来事ではない。何が起こったのか忘れるな。アッラーを信じなかった者は滅ぼされたではないか。アッラーを信じない者は、いかに強い者であれ、常に滅ぶのだ。
 民は言いました。誰が我らを滅ぼすというのか?
 フードは言いました。アッラーです。
 民の不信仰者たちはフードに言いました。我らの神々が我らを助けるだろう。
 フードは、彼らがアッラーに近づこうと崇拝している神々は、それ自身により彼らをアッラーから遠ざけているのだ、と分からせようとしました。アッラーだけが、人々を救うのであり、地上のいかなる力も、害することもなければ益することもないのだ、と。

 フードと民の争いは続きました。
 争いが続き、日々が過ぎ、フードの民はますます尊大で頑迷で横暴になり、預言者を疑いました。そして、フード(彼の上に平安あれ)を気の狂った愚か者だと考えるようになりました。ある日彼らは、彼にこう言いました。
 お前の気狂いの理由が分かった。我らの神々を侮辱したので、神々がお怒りになっているのだ。その怒りでお前は気が狂ったのだ。我らを滅ぼしてみるがよい。お前の言ったことを待っているぞ。我らは地上で最も強いのだ。
 フードは、彼らにも彼らの神々にも何もしていない、と語りました。彼を創造されたアッラーに身を任せ、不信仰の民に下る罰を理解するのだ、と。それこそが生の掟なのだ、と。どれほど強く、豊かで、強大で、巨大であろうと、アッラーは不信仰者を罰するのだ、と。

 フードとその民は、アッラーの約束を待ちました。
 旱魃が始まり、雨が降らなくなりました。太陽は砂漠の砂を焼き、まるで人々の頭の上に居座る炎の円盤のようでした。フードの民が、彼のところに駆けつけました。これは何だ、フードよ。フードは言いました。アッラーが汝らにお怒りなのだ。汝らが信じれば、アッラーは満足され雨を送られ、汝らは力を取り戻すだろう。民は彼を嘲り、ますます頑迷で侮蔑的で不信仰になりました。旱魃が激しさを増します。緑の木々は黄色くなり、作物は枯れてしまいました。ある日、大きな雲が空を埋め尽くし、フードの民は大喜びして外に飛び出し、言いました。
{この雲では、一雨来るぞ 46-24}
 彼らの神々が、とうとう雨を寄越してくれたと思ったのです。
 突然に天候が変わりました。
 激しい熱波から、凍てつくような寒さに変わり、風が吹き、すべてのものが打ち震えました。木々も草も男も女も天幕も震え、皮膚も肉も骨の髄まで震えました。風は毎夜毎日続き、その咆哮を増していきました。
 フードの民は逃げ出し、天幕へ急ぎ、その中に隠れました。風は激しさを増し、天幕がひっくり返りました。覆いの下に隠れると、風はまた激しくなり、覆いを吹き飛ばしました。風は皮膚を切り裂き、身体の穴という穴から入り込みバラバラにしました。
 風はただ彼らを死に至らせ、滅ぼし、その魂を空にして朽ち果てた骨のようにしました。
 風は七夜八日続きました。かつてないことでした。それから風は、その主の許しにより止みました。
 フードの民には、枯れたナツメヤシしか残りませんでした。外側の皮だけで、触れるや否や塵となって吹き飛んでしまいました。
 フードと、彼と共に信じた者は生き残りました。暴君は滅びました。こうしてフードの民はその幕を閉じたのです。