手が届くということは、見えないということ

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 もっと目が覚めると、もっと呼吸が浅くなる。
 目覚めているより、もっと目覚めているのは、高い山に登るようだ。
 気が付かないうちに、空気が薄くなっている。
 時の流れに呼吸が追いつかない気がして、慌てて呼吸すると、もっと空気が足りなくなる。
 本当はゆっくり深く息をして、眠りの方に少し戻るべきなのに。
 ここはとても、空気が澄んでいる。
 何もかもが遠くまでクッキリと見渡せる。
 ただ見えるだけで、手が届かない。
 焦りが、より完全な明瞭さへと駆り立てる。
 でも多分、手が届くということは、見えないということなのだ。
 目の開かない赤ん坊が、毛布に包まるように。
 積もった木の葉の陰を、夜のねずみが走るように。
 だから、きちんと手触りを得るために、もう少しだけ見えなくなった方がいい。



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