アラブ・イスラム世界における他者像の変遷 八木 久美子 現代図書 2007-02-28 |
名著。本当に楽しんで読んだ。あんまり面白くて、読み終わるのがもったいないからゆっくり読もうとしたのに、一気に読んでしまった。
近代以降のアラブ世界の文学や映画に登場する「他者」イメージを追い、翻ってアラブの自己イメージを析出してみよう、という試みだが、取り上げられている作品一つ一つが興味深く、筆者の文体もタイトでかつ柔和。八木先生はきっと美しい方なのだろう、と勝手に想像させられる一冊だ。
以下、本書で取り上げられているいくつかの作品と文学者について、簡単にメモ。
ジャバルティー
日本で言えば幕末から明治維新の時代、ナポレオンによるエジプト遠征の時を生きた知識人ジャバルティー。
ジャバルティーについては加藤博さんの『「イスラムvs.西欧」の近代』も入門書としてお勧めですが、あらためてこの哲人の慧眼に打たれました。
ムスリムに擦り寄ったナポレオンの布告文を「キリスト教徒をも裏切った」と評し、野卑な兵士の振る舞いを糾弾する。ここで重要なのは、彼(と多くのムスリム知識人)は、彼らが「キリスト教徒だから」という理由で批判しているわけではない、ということです。キリスト教徒を名乗りながら、ちっともキリスト教徒らしくない、自らの信仰と伝統に対して敬意を払っていない、ということを責めているのです(わたしの知る限り、現代アラブの知識人にも、そうした傾向がある。彼らが「異教徒」だからという理由で外国人を非難することはまずなく、自らのルーツに対して誠意を持っている人は尊敬します。一方、自文化を省みない人々は軽蔑することが多いです)。
その一方で、彼らの「図書館」が非常に充実しており、しかも知識を宗教・身分のわけ隔てなく公開していることは、素直に評価しています。フランス人の科学技術や知へのオープンな姿勢については、高く評価しているのです。
(長くなりそうなのでポストを分けます)