Categories: 言語メモ

疑問詞هو

 オタク的話題ですが、エジプト方言でهوが疑問詞هلのように使われることがあります。
 基本的に代名詞としての機能はなく、ただ疑問文であることを示すのに使われているのですが、文により主語の性に一致しهيになったりもします。
 これについてハッとしたのは、ある映画を見ていてこんな台詞があった時です。

هو أنا لازم أعمل كل حاجة بنفسي

 別に普通の文章のようですが、これを言っているのは女性なのです。なぜهيにならないのでしょう。
 エジプト人の友人に尋ねたところ、これは「状況全体を指している」のように解釈するらしいです。もちろん、当のエジプト人はそんな深いことを考えて使っているわけではなく、強いて説明するなら、ということです。
 例えば、
هي الأمريكا دولة متقدمة؟
 という文がある一方で、
هو الأمريكا تساعد مصر؟
 とも言えます。後者は「援助している」という全体をぼんやり指している、みたいに解釈すると、納得できるかと思います。もちろん、
هي الأمريكا تساعد مصر؟
 も可で、これだとちょっと主語のアメリカが強調されてる感じです。

 この手のものに出会った時、割と連想するのが、「日本語はtopic oriented」とかいった話です。欧州っぽいSVOの発想だと日本語にはしっくりこない訳ですが、別にしっくりこないのは日本語だけではなく、アラビア語でもうまくいかないことがよくあります(英語でも実際のところそんな単純ではないはず)。
 ですから、元々の古典的なアラビア語文法では、名詞文と動詞文という発想が基本にあって、エジプト方言のような一見「SVO」的に見える構文が多くなっても、それは「名詞文の割合が多い」と考えて、語順が変わったとは捉えないわけですが、現代的な教科書、特に欧米系のものだと、そもそも名詞文だの動詞文だのといった発想は持たず、英文法のようなノリで説明しているものを見かけます。
 この発想だと、実際の運用上うまく説明できないケースが多いかと思うのですが、欧米人はその辺気にしないのでしょうか。
 例えば
أنا ماعاجبتنيش أوي
 とか言う時、別にأناは主語ではありません。名詞文のمبتدأであって、それが後ろの動詞文の目的語として受けられている訳ですが、いっそtopicが前に出ているのだ、と考えても、日本人的には割としっくりきます。

 実際の主語の性に関わらずهوが疑問詞的に使われる場合も、「その話題全体」みたいな見えないモヤモヤーとしたtopicがあって、これが受けられているようなイメージなのではないでしょうか。実際、هوが疑問詞として使われるケースは、هيのそれよりずっと多いです。主語の性と一致しているわけではないことは明白です(かつ、一致しないという訳でもない)。

 以上、ほとんど需要のないと思われる超オタク話でした。

kharuuf

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kharuuf

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