アフリカ21世紀―内戦・越境・隔離の果てに (NHKスペシャルセレクション) NHK「アフリカ」プロジェクト 日本放送出版協会 2002-05 |
2002年のNHKスペシャル『アフリカ21世紀』を書籍化したもの。
構成は、
第1章 ソマリア―内戦地帯を行く
続く内戦と大国の思惑、9/11
第2章 セネガル・マリ―越境するイスラム
ブラックアフリカにおけるイスラーム
第3章 南ア・ジンバブエ―隔離された人々、引き裂かれた大地
アパルトヘイト後も続く人種問題、エイズ禍
となっていて、このうちソマリア内戦に関する部分等は、既に情報としては古くなっている(それだけソマリア情勢が不安定ということですが)。
一方、サハラ以南のアフリカにおけるイスラームについては、一般書籍がほとんど見当たらないだけに、依然として貴重でかつ楽しめる。
また、昨今話題になることの多いジンバブエについても、今に至る背景を概観することができる。ジンバブエを巡る報道というと、ハイパーインフレ、ムガベの強引な土地収用政策、といった部分ばかりが目に付くが、単なる抑圧的独裁として片付けられるほどことが単純でないことは明らかだ(ジンバブエは白人と黒人が融和している成功例とされていたこともあったのだ)。ことに欧米からの報道は、土地を奪われた白人「被害者」の視点がどうしても優勢になってしまうが、本書では「奪う」側の黒人グループにも取材が行われている。
個人的には、セネガルのムリッドと呼ばれるイスラーム教団についての部分が面白かった。
西方イスラーム全般に言えることだろうが、聖者崇拝や土着の信仰と交じり合い、独特の世界観を作り出している。
ムリッド教団一八八六年にアーマド・バンバを開祖として誕生した。この年は鉄道敷設に最後まで反対したウォロフ王国のラット・ジョール王がフランス軍に殺された年である。バンバの父親もイスラム教のマラブーであり、ラット・ジョール王に仕えていた。バンバは王が殺害され、父が死んだ後ムリッドを創設した。伝統的なアフリカの社会が崩壊する瀬戸際で出現したムリッド教団。そして強力な開祖バンバと彼を崇める信者達。植民地宗主国フランスはそこに脅威を感じ、バンバの身柄を拘束し、人々への影響力をそごうとした。
バンバは生涯で三度海外へ流刑になる。しかしフランスの思惑とは裏腹に、流刑の度に信者を増やし、生ける聖者としての名声を高めていった。
バンバは「働くことは祈ること」と説き、教団は相互扶助的な共同体として組織されている。
言わば信仰の一貫として子供も働くわけだが、これには欧米から児童虐待との指摘もある。またイスラーム的にも、ムリッドの個人崇拝は「異端」とされかねない一面がある。しかし、本書に描かれた教団の様相を見る限り、ムリッドが貧困と抑圧の中で民衆の心の支えとなってきたことは事実であり、もし信仰がなかったら自暴自棄と暴力が支配し、最低限の秩序も失われていたことが想像される。実際、セネガル政府(セネガルはイスラーム政権ではない)もムリッドとは協調関係にあるようだ。
個人というものが存在しないかの如き密な宗教共同体の姿は、欧米社会もは不気味にも映り、時に人権侵害の誹りを受けるかもしれないが、それは余りにナイーヴなエスノセントリスムというものだろう。
テレビ的な軽いトーンで、突っ込んだ内容というわけではないが、逆に取っ付きやすく、類書の少ない中で手に取りやすい一冊。