Categories: ノコリモノ

手が届くということは、見えないということ

 もっと目が覚めると、もっと呼吸が浅くなる。
 目覚めているより、もっと目覚めているのは、高い山に登るようだ。
 気が付かないうちに、空気が薄くなっている。
 時の流れに呼吸が追いつかない気がして、慌てて呼吸すると、もっと空気が足りなくなる。
 本当はゆっくり深く息をして、眠りの方に少し戻るべきなのに。
 ここはとても、空気が澄んでいる。
 何もかもが遠くまでクッキリと見渡せる。
 ただ見えるだけで、手が届かない。
 焦りが、より完全な明瞭さへと駆り立てる。
 でも多分、手が届くということは、見えないということなのだ。
 目の開かない赤ん坊が、毛布に包まるように。
 積もった木の葉の陰を、夜のねずみが走るように。
 だから、きちんと手触りを得るために、もう少しだけ見えなくなった方がいい。

kharuuf

Share
Published by
kharuuf

Recent Posts

喧嘩両成敗の成立から「歴史の終わり」の終わりまで

 最近になって、大変今さらなが…

2日 ago

東浩紀『平和と愚かさ』

 東浩紀の『平和と愚かさ』は、…

1か月 ago

カミユ『ペスト』

 カミユの『ペスト』を漫画化し…

2年 ago

私信です

このポストはまったくの私信です…

5年 ago

不可知論のギリギリ一歩手前で永遠に宙吊りにされた

何が正解かわからないから人はパ…

5年 ago