エジプト革命についての一般書籍アフマド・ファトヒー『かつて革命があった』の翻訳をアップしました。
全訳ではありませんが、現時点で四分の三くらいはカバーしています。例によってロクに読み直しもせずあげているので、下訳に毛が生えたくらいと思って下さい。奇特な出版社の方が出版したいと言うか、気が向いたら直します、インシャーアッラー。
この本は専門的な政治的視点で革命を見たものではありません。そうした文脈の情報は、各種言語でそれなりに手に入りますし、政治の専門家が翻訳紹介等するでしょうから、そちらにお任せします。
一市民目線から大衆的な文脈で書かれたもので、客観性には欠ける一方、エジプトらしいジョークと皮肉に溢れている所が魅力です。
表題となっている「かつて革命があった」は、まだ幼い二人の子供の未来に向けて書かれた手紙、という体裁をとっています。ほとんどすべてアーミーヤで書かれていて、筆者の幼い時分からはじめ、ムバーラクに対する見方がどのように変わっていったかから、革命そのものの描写まで続きます。本書の半分以上はこの章が占めています。
この章で語られるエジプトの諸事件は、エジプト人なら誰もが知っている有名な出来事で、エジプト社会を知る契機にもできるでしょう。ひたすら汚職に対する愚痴を様々な描写で繰り返しているところはやや冗長でもあるのですが1、後半の革命リアルタイム描写は手に汗握り、感動で涙が浮かぶほどです。
その他いくつかの小ネタが収められていて、こちらはフスハーの部分とアーミーヤの部分があります。
大衆本なので、どの章をとっても言語や文化に密着したジョークの連発で、翻訳してしまうと今ひとつ面白みの伝わらない部分も少なくありません。そこは残念なのですが、大衆目線での腐敗政権への怒り、革命の興奮が少しでも伝われば、と思っています(と言っても、筆者自身は文化人なので、革命主勢力に属するものの、本当の底辺エジプト人ではない)。
ちなみに、エジプト書籍によくあるように、本書も誤字脱字が非常に多いのですが、とりわけアーミーヤ部分は変な表記が多いです。アーミーヤは正書法が定まっておらず、文化人ですら皆が好き勝手な書き方をしているのですが、逆に言えば綴り方の法則などに筆者の人柄や書き言葉に対する考え方が表れる面があります。わたしの知っている範囲では、アーミーヤ表記について真剣に考え、一番読み手のことを考えた書き方をしているのは、アフマド・アル=イシーリー氏です。イシーリー氏の文章は、綴りの選び方だけ見ても、繊細な人柄が良く表れています。対して本書は、他のアーミーヤ本と同じく「あぁ、エジプト人やね・・」という感じの記法で一杯です(笑)。
追記:
「かつて革命があった」の最後のパート部分が、投稿できていないままずっと気づいていませんでした。すいません。アップしなおしました。