アメリカの不正義―レバノンから見たアラブの苦悩 天木 直人 展望社 2003-12 |
元レバノン大使天木直人氏による、米政策批判。
のようなタイトルに見えるのですが、アマゾンのレビューでも指摘されている通り、「アメリカの不正義」を告発する一貫したテクストが収められているわけではありません。天木氏のレバノン大使時代の日記をそのまま本にしたような体裁で、アメリカの対中東政策に対する疑問は随所で顔を出すものの、まとまった主張を伝えるものではありません。
それはわかった上で、「大使の日記」として手に取りました。タイトル・装丁通りの本なら他に良書がありますし、むしろレバノン政治の日常を眺めて見たかったからです。
ですから、「日記」なのは想定内だったのですが、それにしてもあまり期待に応えてくれる本ではありませんでした。
シリアの桎梏に苦しむ小国レバノンの苦悩を概観する上では、取っ付きやすく益もあるのですが、「これでもか」というくらい要人と握手する自身の写真が並べられ、いかにも「お役人の本」です。天木氏は、イラク攻撃における日本の対米追従を批判し、事実上の解任となったといいます。この行動は、キャリア官僚としては勇気に満ちたものなのでしょうし、本書で述べられている主張の大枠については同意するのですが、登場人物のほとんどが「政府要人」の日記からは、あまりに「上から目線」の印象しか受けません。もう少しだけ我を抑えてくれていれば、少しは良い本になったと思うのですが・・。
天木氏「解任」の真相や、彼の現在の政治的主張についてはよく知らないのですが、張り付いたような笑顔からは政治家のポスターのような作り物っぽさばかりが漂ってきます。
だからといって、本書の内容が嘘だというわけではなく、天木氏なりの誠意を表わしているのだと思います。実際、レバノンの現状について眺める上では、それなりに役に立ちました。また、親アラブな前提に立った上で、敢えて「アラブに物申す」箇所については、なかなか面白い指摘もありました。
「日本人にアラブ諸国のメッセージが届いていない。しかしそれは日本人の責任ではない」。こう嘆く論評が一月三〇日付のデイリースター紙に見られた。イブラヒム・ハミディという記者が東京に滞在し日本の中東情勢に関する報道を観察し、その印象を要旨次のように綴っているのである。
「日本においてもイスラエル側の言い分のみが受け入れられてパレスチナ側の主張はまるで存在しない。(・・・)
しかし、これは日本の責任ではない。アラブ諸国が自らの主張を伝える責任を放棄したからである。その一例を挙げよう。二〇〇一年十二月アラファトPLO議長は武力停止宣言を行った。これに対しイスラエルのリオール駐日大使はすかさず朝日新聞に寄稿し、アラファト議長はうそつきでありこの宣言も信用できないとこき下ろした。朝日新聞は公正を期すためにパレスチナ側にも言い分があれば掲載していとアラブ側に説明の機会を与えていたにもかかわらずアラブ側の反応はなかった。二週間以上もたって、しかもパレスチナの子どもを救うキャンペーンを行っている日本のNGOの手によって、やっとイスラエル大使への反論が朝日新聞に投稿されたのである。
アラブ諸国はマスコミの重要性を見落としている。日本に置かれていたPLOやアラブ連盟の事務所を閉鎖してしまったのも財政的理由というより世論操作の重要性を認識していないためである」
この箇所などは、大変興味深いのですが、こうして読み返してみると、重要なことを言っているのはイブラヒム・ハミディ記者であって、天木氏ではないですね・・。
マーケットプレイスや古書でタダ同然で見かけたら、パラパラ眺めてみても面白いと思います。