アラブ・ムスリムの日常生活―ヨルダン村落滞在記 (講談社現代新書) 清水 芳見 講談社 1992-08 |
92年なので既に15年以上前の本ですが、若き著者がヨルダンの片田舎に住み込み、民間信仰について行ったフィールドワークを巡るエッセイ。
とにかく個々の住人の姿が緻密に描写されていて、おそらくは著者のまじめで人間臭い性格もあって、あたかも小説を読んでいるかのように引き込まれます。
「アラブ世界ではいとこ婚が推奨される」という通説への疑問、意外と一夫多妻が現実的であること、等々、アラブ・イスラーム関係の書籍を読みなれた方にとっても新鮮な部分も。それも「通説を覆そう」という意気から来るものではなく、色眼鏡を外し、極力フレームに収めたい誘惑に抗って書かれているからでしょう。何らかの結論を「まとめる」ことより、見たまま感じたままを綴ろう、という姿勢が強く感じられます。単に著者の人間性が素直、ということかもしれませんが。
民間信仰についての論文調テクストを期待しているなら「はずれ」ですが、アラブ世界の「普通の人々」の息遣いを感じたいなら、かなり楽しめる一冊。
この著者の本を他に探したのですが、これという本がないのですよね。単著でエッセイなど書かせたらとても面白いものができそうなのですが、お忙しくてそれどこではないのでしょうか。