サンドラ・ブロック主演映画『ゼロ・グラビティ』を見てきました。
色々な方が絶賛されているようですが、実際、とても良くできた作品でした。
その映画自体の質とはまったく別問題なのですが、ふとこの作品の科学考証はどうなっているのだろう?と疑問に思いました。
『ゼロ・グラビティ』はいわゆる「リアル」系のSF作品で、スタートレックのようなものとは違います。ISS(国際宇宙ステーション)の様子なども素人目には本物っぽいですし、いかにも突っ込まれそうな作品なので割とカチッと考証ができていそうです。わたし自身はそうしたことに全く詳しくないので、誰か書いている人がいないかと思ったらTIMEにこんな記事がありました。
Gravity Fact Check: What the Movie Gets Right and Wrong About Space | TIME.com
おおよそ以下ような内容です(「ネタバレ」も含まれますので要注意)。
・船外活動の時はオムツをしているし、帰ってきたら汗だくの筈(船外活動で着用する宇宙服の着心地は? | ファン!ファン!JAXA!を見ると、「宇宙服の中は乾燥しているので汗はすぐ乾く」と書いてあります)
・ハッブル宇宙望遠鏡とロシアの人工衛星は軌道傾斜角が異なり、劇中のような爆破事故が起こってもデブリの直撃を受けることはない(通例、人工衛星等は極力自国上空を通過するようになっている)
・ISS(国際宇宙ステーション)も同様にハッブル宇宙望遠鏡からかなり遠い
・劇中のような衛星破壊の連鎖はほぼ起こらない
・劇中でジョージ・クルーニーが使っている有人機動ユニット (MMU) は非常に燃料が少なく、映画冒頭のように気軽飛び回ったりできない
・MMUを使っていない命綱を付けた宇宙飛行士も、緊急用の「セルフレスキュー用推進装置SAFER」を使用している筈だが、サンドラ・ブロックはつけていない
・劇中で消火器が噴射剤に使われる場面があるが、到底そんな器用なことはできない
・中国の宇宙ステーションは非常に小規模で、ハッブル宇宙望遠鏡とは軌道傾斜角が異なる
・宇宙服を着ていると指を動かすのに非常に力が要り、到底船外の突起物などを器用に掴んですがりつくことなどできない
念のためですが、これらはすべて無粋なツッコミであって、科学考証に厳密でないところがあったとしても、映画の質とは全く別問題です。別に『ゼロ・グラビティ』を批判している訳では全然ないので、ご理解下さい。そもそも、これらのツッコミが正しいのかどうかも、わたしは知りません。まぁ、中国の宇宙ステーションなんかはちょっと都合よくそばにありすぎなんじゃないかとは思いましたが・・。
個人的にはむしろ、ジョージ・クルーニーのキャラが完璧過ぎることの方が余程気になりました。劇中で「手を放す」ところは、感動的なのかもしれませんが、もう一つスッキリしません。
また、映画の割と始めの方で、カメラが宇宙空間に浮かんでいるサンドラ・ブロックに接近していって宇宙服の内側に回りこむ、という演出があり、これはとてもカッコイイのですが、こういう長回しも「どうせCGなんでしょ」と思うと昔のような緊張感がありません。まぁ、内容が内容だけにCGだらけなのは仕方がないですが。年寄りとしては、相米慎二の頃の長回しが懐かしいです。
あとは、『ゼロ・グラビティ』という邦題は酷いですね。なぜ原題のGravityのままではいけなかったのか、理解に苦しみます。こちらは非常に意味があり、最初と最後で二回タイトルが入るのにもマッチするのですが。
よく言われることですが、こういう中途半端なカタカナ邦題というのはどうやって決まるのでしょう。「英語じゃ分かんないから『サンドラ・ブロックの無重力大冒険』にしよう」とかならいっそアッパレなのですが、「ゼロ・グラビティ」と「グラビティ」でどう効果が違うのか分かりません。
ラストで水の中から這い上がり「立ち上がる」場面はとても美しいです。重力の中で、重力に抗いながらも、重力のお陰で「立っている」。この映画には、娘の死を乗り越えるという意味もあるのですが、「グラビティ」にはそうした運命の呪縛と恩寵という要素も重ねられています。起きたことのすべてはわたしたちを縛り、不自由にさせますが、その不自由さのお陰で、わたしたちはわたしたちとして立ち、自由に生きることができるのです。
それから、犬の鳴き真似をするシーン。あれもとても印象に残ります。なぜなのかよく分かりませんが、同じような孤独に押し込まれたら、わたしも遠吠えしてそうな気がします。
まぁ、わたし個人がこの映画を見ていて一番感じたのは「宇宙絶対行きたくない」でしたが(笑)。
映画そのものとは直接関係ありませんが、「リアル宇宙開発もの」としては『MOONLIGHT MILE』というマンガも途中までは面白かったです。息子編になってからは今ひとつですが。
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