アラビアのロレンス 完全版 [DVD] ピーター・オトゥール, オマー・シャリフ, アレック・ギネス, アンソニー・クイン, デビッド・リーン ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2006-12-20 |
『アラビアのロレンス』完全版を見てきました。
一応「アラブ・イスラームなブログ」という立場では評価できる作品ではないですし、アラビア語がほとんどまったく登場しなくてションボリもしたのですが、史実や真実のロレンスやこれらの戦いの後にパレスチナを襲った悲劇といった諸々を括弧に入れて純粋に映画として評するなら、非常に面白かったです。映画は映画でしかないですし、そうやって見るのが妥当な鑑賞法だと思うのですが(笑)。
砂漠の風景、ラクダたちの画がとにかく圧倒的です。蜃気楼の向こうから少しずつ少しずつ人陰が見えてくる映像は特に素晴らしい。フィルムの質感も今時と違って厚みがあって落ち着きますし、CGもなければ、夜のシーンを強引に昼に撮影していたり、「手触りのある大作」ここにあり、という感じです。個人的には、冒頭のオートバイ事故の場面のバイクの風切り音も好きです。バイクに乗っている(乗っていた)人なら誰でもわかりますが、あれはバイクの「乗り手視点」の音で、バイク独特の興奮と不安を表現するという意味で、あの場面にふさわしいものでしょう。
物語としては、やはりロレンスがイケイケの前半の方が素朴に楽しめます。少しでもアラブに興味のある人なら、というかない人にとってもツッコミ所満載ですが、砂漠がデカくてラクダが可愛いからOKではないでしょうか。
オリエンタリズムを絵に描いて額に入れたような映画ではあるのですが、多分オリエンタリズムに外部はないのであって、『アラブ・イスラム社会における他者像の変遷』等で正確に抉出されている通り、アラブ人の自己イメージにもアラブへのオリエンタリズムが「逆輸入」され、結局物語から完全に独立した世界など存在しないわけです。さすがに『アラビアのロレンス』を「逆輸入」できるアラブ人はあまりいないのではないか、とも思いましたが、占領と植民地支配の問題を保留すれば、極端な話、滑稽な日本像を描くアメリカの忍者映画があったとしても、日本人は普通に楽しめるでしょう。「野蛮」な部族長が英語の名刺まで読めたりするのは、忍者映画も顔負けですが・・。
劇中でアラビア語と言えるのは、アザーンと看板にあった文字くらいでした。