遊牧の文学―イブラヒーム・アル・コーニーの世界 奴田原 睦明 岩波書店 1999-06 |
ベドウィン出身の作家イブラヒーム・アル・コーニーの世界を紹介する奴田原睦明大先生の一冊。
作品概説のような形式ではなく、テーマごとに複数の作品からの引用を交えながら、ベドウィンの感じ方、世界観を素描していくスタイル。
個人的に印象的だったのは、遊牧民トウアレグ族の元に神秘主義教団のシャイフが訪れ、略奪により得た奴隷を解放するよう説得する下り。渋っていた族長が遂に折れて、奴隷たちは解放されるのですが、これに一番反対したのが当の奴隷たちだったのです。
「自由なんか欲しくないんだ。俺たちのところから立ち去ってくれ。俺たちはご主人様の庇護の下で暮らしたいんだ」
「お前たちの主はアッラーなのだ。天国は自由の足下にあるのだ」
「天国など欲しくない。俺たちをこのままにして、あんたはどこかへ立ち去ってくれ」
(・・・)
「あたしたちはいとしい人たちのもとへ帰りたいんだ。あんたが言う天国へ鎖につながれゆくのなんか、お断りだよ」
巻頭に収められた藤沢章さんの淡い絵柄の挿絵も、とても素敵です。