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共存ではなく遅延

 共存という考えは大変見栄えが良いのですが、どうにも結果だけを切り出しているようで、実際的ではない場合があります。「共存している様」を安全圏から見下ろしたような、第三者的な面があります。
 好きな人と仲良くやっていくだけなら、敢えて「共存」などと言う必要はないのですから、共存という時に念頭に置かれているのは「嫌いなヤツ」の筈です。人が人を嫌いになるのに理由など要りませんし、民族やら国家やらにイチャモンつけるのだって、どんな屁理屈ででも出来ます。
 こういう人たちと「共存」ということを言う時、それは歩み寄っていって握手をするとか、そういう話ではないでしょう。
 いや、握手できれば大変結構ですが、そうもいかない場合が多いでしょうし、むしろ握手できない場合における「共存」こそがクリティカルは筈です。
 そうした状況に自らが身をおいているところを想像してみれば、「共存」という言葉はいかにもしっくり来ません。
 そこにあるのは「あいつ絶対ブチ殺す! でも今日は眠いから明日にしよう」とか、それくらいの関係です。
 ここで「とりあえず明日にしよう」というのが、とても重要です。
 人間誰しも、一瞬カッとなって「ブチ殺す!」とか思う瞬間はあります。そういう時に、本当に一々ブチ殺していたら、人類の死因ナンバーワンは他殺になっています。「ブチ殺す!」と思っても、大抵の場合は殺しません。
 なぜ殺さないのかというと、法律もある訳ですが、そんなのは後付の理屈であって、明文法があろうがなかろうが、殺す時は殺すし、殺さない時は殺しません。明文化されていない圧力にしても、あろうがあるまいが殺す時は殺していたでしょうし、今でも殺しています。
 大抵の場合は、単に面倒くさいから殺さないのです。仮に「ブチ殺す!」と思って走りだしても、走っているうちに段々くたびれてきて、お腹がすいてきたりして、「今日はラーメン食べて帰ろう」とかになるのです。
 こういう距離感というか、冷却期間というのがとても大切です。
 そこから「棲み分け」という発想が出てくるのですが、これも空間的・俯瞰的で、結果だけ切り出した感があります。
 棲み分けが機能するのは、距離があるからですが、距離がなぜ機能するかと言えば、時間がかかるからです。
 つまり遅延です。
 時間差があることで、色んなことがウヤムヤになります。ウヤムヤになってマズイこともある訳ですが、ウヤムヤになっているお陰で保たれているものも沢山あります。
 基本的に人類は、今よりずっと大地が広く、距離も大きければ時間差も大きい世界で育って来ました。もう、あれやこれや色々ウヤムヤになる世界です。
 今はずっと世界が狭くなり、遅延が小さくなりました。それは結構なことなのですが、そのせいでウヤムヤにならない場合がままあります。
 わたしたちのご先祖様は、やたらウヤムヤになったり、やろうとしている間にお腹が減ってやる気がなくなる世界で暮らしてきた訳ですから、わたしたちもまた、その人類学的な余波の中にいます。要するに、こんなにウヤムヤにならないことに、人類はまだ慣れていないのではない筈です。
 基本的に、遅延したりウヤムヤになることは「悪い」ことで、それを改善すべくわたしたちは進歩してきましたから、遅延の活用については、今ひとつ考えが進んでいません。
 「時間を稼ぐ」ことは大変重要です。
 ノラリクラリ時間を稼いでいるうちに、なんとなくウヤムヤになったり、なんだかよくわからない偶然で問題が解決する、ということもあります。もちろん、解決しないことも沢山ありますが、急いでやってもどの道解決しないのなら、一緒のことです(急いだら解決する、という場合だってありますが)。
 「将来に問題を先送りする」というと、大抵の場合は「悪い」ことですが、先送りにして何とかなる場合だってあるでしょうし、先送りにしないでもどうにもならないことなら、先送りにしておくしかできることはありません。大体、先送り先送りにノラリクラリとかわしてきた成れの果てがわたしたちなのです。
 「そんなことではイカン! 今こそ抜本的に解決しなければ! 維新!」とか言うと勇ましいですが、そんな若造の気合一つで解決するようなことなら、とっくの昔に何とかなっていたでしょう。時には本当に解決することもあるでしょうが、大抵の場合は、やってみると「こりゃ先人もダメだったわけだわ」というような難問・迷宮が次々明らかになって、何も見なかったことにして蓋を閉じるのです。

 共存の話からどんどんズレて、ものすごい後ろ向きの話になりましたが、色々先送りにしてウヤムヤにすることで、今日殺し合わないで済むことだってあるでしょう。
 エジプト人は何でもかんでも「ボクラ(明日)」で済ませて、このボクラは永遠にやって来ないのですが、そういうやり方の効用というのもあるでしょう。
 いや、害悪も相当あるのはよく知っていますが・・・。

kharuuf

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