エジプトの映画俳優アーデル・イマーム氏が、宗教侮辱のかどで投獄される、とのニュースを目にしました。
アーデル・イマームは、エジプトのみならずアラブ世界全体で知らない人がいないくらいの超有名俳優で、アラブ映画に少しでも興味を持っている人なら必ず目にしたことがあるでしょう。それくらい影響力のある人なので、結構な波紋を呼びそうです。
彼が出演した『ハサンとマルクスحسن ومرقص』という映画が、イスラーム主義者から批判されていて、これ以前にも過激派から脅迫を受けて、アーデル・イマーム氏がカイロから逃げる、ということがあったのですが、公式に罪に問われるというのは驚きました。どう考えても脅迫している側こそ犯罪者だと思うのですが・・。
この映画はわたしも見たのですが、正直これのどこが宗教侮辱なのかよく分かりません。
隣人であるイスラームとキリスト教(コプト派)のそれぞれの宗教者二人(アーデル・イマームとウマル・シャリーフ)が主人公で、二人は宗教間の融和を訴えています。その為過激派からは目の敵にされ脅迫を受け、事態を危惧した警察によって、それぞれが反対の宗教の信徒のフリをして潜伏する、という方策がとられます(この辺はまったく非現実的な設定だと思いますが)。最後は両宗教の過激派同士の暴動になり、そのあおりを食らって二人の家も燃やされてしまいます。それでも二人とその家族は、宗教の違う相手の家族を助けるために、命の危険も顧みず火の中に飛び込んでいきます。ラストシーンは、両家族が手をつなぎながら、大乱闘の真ん中を歩いて行く、というものです。
テーマがテーマだけに、この映画は色々と物議を醸し出しました。正直、過激派の描写などはわざとらしいし、融和派の二人の振る舞いもやりすぎで漫画的です。ムスリムのシェイフがキリスト教徒の集会に参加して融和を訴える演説をして、挙句に十字まで切って見せる、というのは、実際にやったらお笑いものでしょう。宗教勢力を弾圧して世俗国民国家モデルを強調したいムバーラク政権の思惑が絡んでいる、ととられても仕方がないところがあります。
ただ、映画そのもののテーマは前向きですし、宗教勢力とムバーラク政権の関係などの背景事情を知らなければ、むしろ宗教に対してポジティヴなメッセージを発している映画ととらえる筈です。ましてその映画に参加した一俳優が、いかに影響力のある人物とはいえ、法的な罪を問われるというのは、ちょっとどうかしているように思います。
アーデル・イマームは革命時にムバーラク政権を支持していた為、反革命分子のみせしめ処分という意味もあるのでしょうか。裁判官は同胞団の息のかかった人物らしいですし、もしそうだとしたら、同胞団はそれこそ映画並に漫画的振る舞いを自らすすんでやっていることになる気がします。