現時点では2012年6月に予定されている大統領選挙ですが(多分予定通りにいかない)、現在のところ有力視されている候補には次のような人たちがいます。概ね優勢順です。
ハージム・サラーフ・アブ=イスマーイール حازم صلاح أبو إسماعيل
イスラーム法学者で、エジプト弁護士会メンバー。同胞団から推薦を受けて選挙に出馬したりしていますが、厳密には微妙に立場が異なるようです。ただ、多くのエジプト人は「同胞団の人」と認識しています。
イスラーム系最有力候補ということで、もし大統領になったらシャリーアを施行するのか、観光を禁止したりするのか、等々が衆目を惹く話題として問われるのですが、「そんなことより、経済を立て直したり先に改革しなくちゃいけないことが沢山あるだろう」と、真っ当な考え方のできる人です。
エジプトのシェイフには、ヒジャーブから髪の毛がちょろっと出てるから地獄に堕ちる、みたいな話ばっかりしているアホな人が一杯いますが、この人はそういうトンデモ系ではありません。
とはいえ、さすがにこの人が大統領になったら、色々な面で観光産業などは打撃を受けることになると思います。
ムハンマド・アル=バラーダイー محمد البرادعي
日本語では「エルバラダイ」とよく表記されている、国際原子力機関(IAEA)の第4代事務局長。2005年にノーベル平和賞を受賞しています。
リベラル寄りに人気で、特に革命を主導したボンボン若者層には一番人気です。欧米諸国にパイプを持っていますが、一方で長いこと欧州にいて(ムバーラクに睨まれていたから、というのもある)、「西洋かぶれ」のイメージもあります。外国籍を持っているのでは、という疑惑をかけられて、否定していたことがあります。
革命前から世襲やムバーラク体制を批判していて、「民衆が望むなら立候補する」と語っていました。
アムル・ムーサー عمرو موسى
アラブ連盟事務局長。外交官出身で政治手腕もあり、バラーダイーのような西洋かぶれイメージもなく「エジプト」という感じのする人物ですが、革命前にさんざん皆から期待されながら「立候補はしない、のんびり暮らす」みたいにノラリクラリ交わしていた経緯があり1、その点では印象が悪いです。また、旧体制とつながりを持っている人物、ということもあります。
旧体制系といっても、ムバーラクのお気に入りではありません。アラブ連盟事務局長というのも、名前は立派そうですが、はっきり言って今のアラブ連盟は政治的な影響力に乏しく、名誉職に飛ばされたみたいなものです。
アブドゥルミンイム・アブー=アル=フトゥーフ عبد المنعم أبو الفتوح
ムスリム同胞団の元幹部の一人で、アラブ医師連盟事務局長。
ハムディーン・サバヒー حمدين صباحي
尊厳党حزب الكرامةの党首。尊厳党は革命以前から存在した正当で、ハムディーンはジャーナリスト出身。リベラル系とも言われますが(エジプトでの「リベラル」は、宗教系でなければかなり大雑把にそう呼ばれるところがある。「世俗主義」という言葉がほとんど誹謗語のため、代わりに使われていることが多い)、ナセリズム、アラブ社会主義寄りの人みたいです。
キャラ的に激しいところがあります。
革命にも初期から参加していました。1月25日にカイロから遠く離れた村に帰っていたのを、急遽舞い戻ってデモに参加したそうです。
ヒシャーム・アル=バスタウィスィー حشام السطويسي
司法系の人で、エジプト破毀院副裁判長。エジプトでは裁判官とか判事とかはなぜかイメージが良いです。