歳月が流れ、人々が生まれ、死にました。
フードの民の後、サムードの民が現れました。そして、サムードには、天罰の物語が違う形で繰り返されました。
サムードは違う偶像を崇拝しており、アッラーは(我らの主)サーリフをその民サムードへと遣わされました。サーリフはその民に言いました。
{わたしの人びとよ、アッラーに仕えなさい。あなたがたには、かれの外に神はないのである 7-73}
どの預言者も口にした同じ言葉です。真理が他で代えられたり変更されたりしないように、代えることも変わることもありません。サーリフの民の長老たちは、彼の言葉に驚きました。彼は、彼らの神々を何の価値もないものとして責めたのです。彼は偶像崇拝をやめさせ、唯一なるアッラーへの信仰を訴えました。呼びかけは、皆に騒動をもたらしました。サーリフは、知恵と純粋さと善良さで知られており、アッラーが彼に啓示を与え彼らへの呼びかけに遣わすまでは、民の尊敬を集めていたのです。
サーリフの民は彼に言いました。
{サーリフよ、あなたはわたしたちの中で、以前望みをかけた人物であった。(今)あなたは、わたしたちの祖先が仕えたものに仕えることを禁じるのか。だがあなたが勧める教えに就いて、わたしたちは真に疑いをもっている 11-62}
彼の民は明らかに彼を信用せず、呼びかけに対し不平を述べ、魔術にかけられたのだと考えました。彼らは、彼がアッラーの使徒だと証す奇跡を求めました。アッラーはこの求めに応じようと望まれました。サムードの民は、山を掘ることで立派な家を造っていました。岩を使って建築していたのです。アッラーがすべての恵みを与えた強き者たちで、アードの民の後にやって来て、この地に住みついていたのです。
信ずるための奇跡を求められ、サーリフはその民に言いました。
{わたしの人びとよ、これはアッラーの雌ラクダで、あなたがたに対する一つの印である 11-64}
印とは奇跡のことです。この雌ラクダが奇跡ということです。なぜなら、山の岩が割れ、そこから雌ラクダが現れたからです。未知の方法で産まれてきたのです。この雌ラクダが井戸の水を飲んでいると、その日は他の動物は井戸に近づきません。ラクダが水を飲む日は人の飲む水が残らず、ただ人々皆に十分なほどの乳を出しました。
この雌ラクダは奇跡であり、讃えある至高なるアッラーはこのラクダを{アッラーの雌ラクダ 11-64}と仰いました。
讃えあるものは、この雌ラクダは普通のラクダではなく、アッラーの奇跡とされたのです。
この雌ラクダに触れたり、これを害したり殺してはならない、と民に伝えるよう、アッラーはサーリフに命じました。アッラーの大地で食べるにまかせ、手荒く扱わないように、と。そして彼らに、この雌ラクダを害するようなことがあれば、すぐに罰が下るだろう、と警告されました。
雌ラクダが山の岩から生まれた最初の頃、サムードは大変驚きました。
これは祝福されたラクダで、その乳は千人の男、女、子供たちに足るほどでした。眠りにつけば、他のすべての動物がそこから離れました。ただのラクダではなく、アッラーの印であることは明らかでした。雌ラクダはサムードの民の中で暮らし、信じる者は信じましたが、ほとんどは頑迷で不信仰なままでした。(我らの主)サーリフへの憎悪が祝福された雌ラクダへの憎悪へと転じ、そこに憎しみが集まり、悪巧みが進められていきました。不信仰者たちはこの偉大なる印を憎み、計画を練りました。
夜が訪れ、サムードの民の長老たちは、山に掘られた城の中で話し合いました。
一人の不信仰者が言いました。
「熱波の折に、あの雌ラクダが涸れ川の涼しい日陰に来たので、家畜たちが日差しの下に追いやられてしまった」
別の不信仰者が言いました。
「冬にはあの雌ラクダが温かい場所を探して休んでいるから、我らの家畜が寒い場所に追いやられ、病気になってしまった」
悪巧みをする長老たちは言いました。
「では方法は一つしかないな」
不信仰者たちはその方法について尋ねました。長老たちは言いました。
「雌ラクダを殺すのだ。それより他に方法はない」
居合わせた者の一人が言いました。
「サーリフがあれに触るなと警告していたぞ。酷い罰が下ると」
悪巧みをする長老たちは言いました。
「我らはサーリフを信じてはおらん」
雌ラクダを殺す企みが始まり、堕落した罪人たちから九人の男たちが選ばれました。彼らのうちで最も冷酷で残忍で罪深い者たちです。そして彼らに、ラクダ殺しが任されました。
犯行の日時が決められ、暗い山々に闇が広がっていきました。犯行の夜がやって来ました。
祝福された雌ラクダは、胸に小さな子供を抱いて眠っていました。寒かったので、子供は母の温もりを求めていたのです。
九人の罪人達は、剣と弓で殺しを用意し、裏切りの世界に入るように、闇の底に現れました。首領の男は酒をたらふく飲み、前もよく見えないほどでした。九人の男たちは雌ラクダに襲いかかり、驚いたラクダとその子供が起き上がりました。罪深い手が、雌ラクダに振り下ろされました。
雌ラクダの血が流れました。
その子供も殺されました。
預言者サーリフは事件を知り、怒って民の元に現れました。この雌ラクダに触れるなと警告したではないか。
民は言いました。我らが殺した、さあ罰をよこしてみろ。
サーリフは民に言いました。
{3日の間あなたがたの家で(生を)楽しめ。それは偽りのない約束である 11-65}
それから、サーリフは民の元を去りました。彼らを捨て、去って行きました。ことは終わり、アッラーは彼に、三日後に彼らを滅ぼすと約束されたのです。
雌ラクダは死ぬ時に、三回深い息をつきました。
三日がサーリフの民の不信仰者たちのもとを流れました。彼らは罰のことを馬鹿にしながら待っていました。四日目の夜明けのことです。
巨大な叫び(サイハ、懲罰の一声)と共に、天が割れました。叫びは山々に響き、生きるものすべてが滅びました。アッラーが地上の山々と立派な建物を、平らにしてしまったのです。すべてが静寂に戻りました。
ただの一回の叫びでした。最初の一回が響き渡り、次がそれに続く前に、サーリフの民の不信仰者たちは、すべて雷に打たれていました。
何か起こったか分からないうちに、皆が滅んでいました。
一方、(我らの主)サーリフを信じた者たちは、預言者と共にその地を去っており、事なきを得ました。アッラー以外に使えた者たちは滅びました。