数えられなかった羊

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アラブ、イスラーム、アラビア語、現代思想関係書籍の書評、映画レビューと言語・精神分析を巡るメモ

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名詞文と動詞文

 アラビア語の名詞文と動詞文について、日本の教科書で見かける説明とアラブ人の先生の説明に違いがあり、非常に面白かったのでメモしておきます。

 例えば
كتب أحمد رسالة
 なら、当然أحمدがفاعل動詞文主語になります。
 一方、
كتبتُ رسالة
 では、主語はどこでしょうか。わたしが見た範囲の日本の教科書では、ハッキリ書いていたかはわかりませんが、「省略されている」といった説明がされていた気がします。
 しかしアラブ人の先生によると、ここでの主語はتなのです。تはضميرで、فاعرなのです。
 これが
كتبت ليلى رسالة
 なら、スクーンのتはحرف活用語尾であってضميرではありません。
 では、
أنا كتبت رسالة
 ならどうでしょうか。
 以前からしばしば疑問に思っていたのですが、日本の教科書では、こういう文を「動詞文」と分類していることが多い気がします。欧米でもそうなのかもしれません。つまり、動詞があればجملة فعلية動詞文、動詞がない名詞と補語で構成されている文はجملة اسمية名詞文、という考え方でしょう。
 ところが、色々な解説を目にしていると、上のような文は名詞が一番前に来ているので「名詞文」としているものがあります。アラブ人の先生もそう説明されていたのですが、その時は「そういうものかな」という程度で、今ひとつストンと落ちていませんでした。動詞の前に来ていようが後に来ていようが主語は主語で、なぜその位置で構文の基本分類が変わるのかな、主語の位置なんて瑣末事じゃないのかな、とぼんやりと感じていたと思います。
 しかし、このتを「代名詞」とする考え方で、非常に頭がスッキリしました。
 もしこれが代名詞で動詞文主語だとすると、最初のأناは何なのでしょうか。
 これはمبتدأ名詞文主語なのです。
 主語が二つ? そうではなく、أناはمبتدأで、كتبت رسالة全体がخبرです。つまり複文構造になっているわけです。
 この考え方は、非常にストンと落ち、今まで何となく読んでいた文章がとても明晰に理解できる気がしてきました。ものすごい基本的なことで、最近までぼんやりしていたのが恥ずかしいのですが、どちらの説明でもとりあえず意味はとれますし、それが逆に穴になっていたのでしょう。別にこちらの説明を採用しなくても十分アラビア語を理解できると思いますが、言われてみるとこっちの方がスッキリしています。
 名詞文のないヨーロッパ言語のノリに馴染んでいると(といっても個人的には英語とフランス語しか知りませんが)、この説明は最初飲み込みにくいのですが、アラブに染まってくると(笑)、これはこれで合点がいくようになります。非常に「アラブ的」な印象を受けます。名詞文の存在というのが、やはりアラブ的なるものの一つの鍵になっているように感じます。
 おそらく、日本の初級教科書にある説明は、英語文法に慣れた日本人を想定し、敷居が高くなりすぎないよう、動詞の有無をフラグにするような考え方をしているのでしょう。また、「名詞が最初に来れば名詞文」という説明法は、現象に着眼し手っ取りはやい見分け方を指南したもので、構文の本質を説明したものではない、と言えるでしょう。

 わたしはアラブ人にしかアラビア語を教わったことがないので、日本の大学等でどのような教授法がされているのか、ちょっと気になります。
 文法というのは、要はストンと落ちて学習上有用であれば正しいのではないかと思いますから、この解釈法や、延いては名詞文だの動詞文だのという話自体を振りかざすつもりは毛頭ありませんが。
 とにかく、素朴に非常に面白い! 久々に全身の血が沸くように楽しかったです。

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