『パレスチナ』新版 広河隆一

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4004307848 パレスチナ新版 (岩波新書)
広河隆一
岩波書店 2002-05

 名著の誉れ高いパレスチナ問題の新書。
 決してクールな「パレスチナ現代史」ではありません。著者の広河隆一氏はフォトジャーナリストであって学者ではないし、文体も徹頭徹尾ジャーナリスティック。「パレスチナ概説」系の新書は色々ありますし、「学問的」精密さを求めるならもっと良い本もあるかと思いますが、この地の現実を少しでも実感したいなら、本書のようなスタイルが導入として相応しく思えます。
 87年の『パレスチナ』と94年の『中東 共存への道』を2002年に加筆・再構成して出版されたのが本書『パレスチナ新版』で、『新版』構成時の情報でも最新ではありませんが、『新版』構成時の加筆が相当あるとみられ、現代パレスチナ問題の基本構造を知るには必要十分。特に良いのは、バルフォア宣言、フサイン・マクマホン協定などの「そもそものことの起こり」よりも、今のパレスチナに直結する70年代以降の歴史に紙数が割かれており、かつその描写が大変わかりやすいこと1
 広河氏は、若き日にイスラエル・キブツの社会主義に惹かれ、そこで労働の一季節を体験した人物。ヘブライ語にも通じられるようです。それがシオニズムの欺瞞性に気づき、取材というよりは生活を共にする中で得られた一成果が、ここに表わされています。凄い方です。

 シオニストの蛮行、パレスチナの悲惨な状況については、直接本書にあたられるのが一番ですし、詳しいサイトも色々あります。
 ですから、個人的に印象に残ったところを挙げるとするなら、

・イスラエルの少なからぬ「普通の人々」が、本気でイスラエルの正義を信じている
・一方で、イスラエル内部にも占領への懐疑を抱く人は多い。単に道義的というだけでなく、「占領地はお荷物」という視点も重要
・イスラエルというと、ついアメリカとの関係やシオニズムの思想(イスラエルそのものを成り立たせているコンセプチュアルな面)にばかり目を捕らわれてしまうが、インフレや失業等の「普通の問題」を抱えている。イスラエルの戦争も、こうした「国内事情」に端を発している面が小さくない

 といったところでしょうか。
 イスラエル国内左派の存在には、少しだけ救いを感じます。

 イスラエルの著名な作家で、『ヨルダン川西岸』の著者デイヴィッド・グロスマンは次のように語った。
「私は占領地には足を踏み入れなかった。エルサレムの旧市街にすら行かなかった。その地域がいだいている憎しみを感じていたからだ。だがもっと大きな理由は、対等でない関係にがまんがならなかったからだ。あまりにも多くの人たちと同じように、西岸というあの腎臓の形をした土地が、自分の意に反して体内に移植された一つの臓器に思えてきた。もちろんこの移植された臓器は、私の意識の中で抗体をつくり続けた」

 もう一つ印象的だったのは、2000年の第二次インティファーダ時、絶望的な抵抗に不安を掻き立てられヒステリックになるメディアや大衆に対し、「最右翼」とも言えるイスラエル秘密警察の元長官アミ・アヤロンが、非常に冷静なコメントを残していること。

これはたった二週間前までイスラエルとの和平を信じていた人間たちだ。彼らは和平を待望しており、それが失望に変わったときにこうした行為に出たのだ。

――船にたとえるならイスラエルという船は今どんな状況にあるのか。沈むのか、生き残れるのか。
「大嵐の中で沈もうとしている。生き残るためには何をしなければならないのか、深刻に考えなければならない」
「リンチでイスラエル兵を殺した彼らは、ほとんどみんな和平に失望した人間たちだ。パレスチナ人の社会は三つのカテゴリーに分けられる。一つ目は和平のプロセスを支持するグループだ。二つめは和平に反対する者、三つめは最近、和平に失望した人間たちだ。
 この最後のグループが今どんどん大きくなり、より暴力的になっている。
 このグループは、和平の中心にいた人間たちだ。彼らはかつて和平を支持して、和平はこの人間たちに支持されて育った」
――がっかりしたパレスチナ人が、こんなひどいリンチをしたのですか?
「彼らは完全に理性を失ったのだ。すべてのパレスチナの政治構造が完全に破綻し、指導者たちも示す道を失い、指導力も細かく分断されたからだ。
 アラファトは事態をコントロールできていないし、戦略計画を立てる力もない。もし誰かが、この事態はアラファトが計画的に作り出したのだというのなら、その人間はパレスチナ状況も、今何が起こっているのかということも、完全に理解できていない。アラファトは人々に進む道を指し示すこともできない。
 そしてイスラエルが力で解決しようとしても、状況を変えることはできない。われわれは過去で失敗してきた。未来もこういう考えで行けると考えるのなら、残念だ」

 これもまた、一人でも多くの人に読んでいただきたい一冊です。

  1. イギリスの「三枚舌外交」がことの発端であるのは言わずもがなですが、現況を理解するにはPLOの活動あたりから追った方がわかりやすいと思う []
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