「バイート・ハーウィー」マサール・イグバーリー بقيت حاوي :: مسار إجباري

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 エジプトのバンド「マサール・イグバーリーمسار إجباري」のバイート・ハーウィーبقيت حاويという曲です。

بقيت حاوي
بقيت غاوي في عز الجرح أنا مابكيش
بقيت عارف أطلع من ضلوع الفقر لقمة عيش
بقيت قادر أداري الدمعة جوايا مابينهاش
بقيت راضي أنام رجليا مقلوبة كما الخفاش
أنا إتعودت أحلامي أشوفها بتجري قدامي ومالحقهاش
أنا سلمت..سبت العفرة على دقني
وصدقني الدنيا دي حاجة ماتسواش

僕は大道芸人になった
苦しみの極みで泣かないのを楽しむようになった
貧しさの肋骨から一切れのパンを得る(意:貧しさの中で何とか収入を見つける)ことができるようになった
コウモリのように逆さまになって寝て満足するようになった
夢が実現できないまま過ぎ去っていくのに慣れた
僕は諦めた
ヒゲにホコリがついても放っておく(意:悪い状況に対して何もしないまま放置すること)
この世は何の価値もないと信じた

 曲は綺麗なのですが、歌詞の内容は非常に暗いです。
 ハーウィーحاويは「大道芸人」なのですが、アラブ世界における大道芸人というのは、日本でのそれとはイメージが違って、乞食とクロスオーバーする存在です。逆に言えば、乞食といえど、あの手この手の「芸」を用いて他人からお金をせびるもの、ということです。この辺は保坂修司さんの『乞食とイスラーム』が非常に面白いので、興味のある方には一読をお薦めします。
 現代のエジプトではかつてのようないわゆる大道芸人はほぼ見られません。この歌詞の文脈では、「超人的な技量でその場を乗り切る者」のようなイメージで、エジプトの酷い窮状にあって、何とか切り抜ける能力を身につけてしまった、ということです。

 イフワーン(同胞団)が政権を取った時、多くの人が「どうせ混乱するだけで先も長くないだろうな」と考え、わたしもそう思っていましたが、ここまで酷い状況になるとは思っていませんでした。
 このところエジプトからやって来るニュースは、あまりにも希望が見えず、エジプト人でなくても暗澹たる気持ちになります。
 もちろん、イフワーン以外が政権を取っていたとしても、上手くいったとは思いません。もう、誰が悪いとか、そういうレベルの話ではないでしょう。逆に言えば、何をどうしたらマシになるのか、サッパリ分かりません。多くのエジプト人もそういう気持ちかと思います。
 先の大統領選で敗れた人々など、モルシー大統領に反対する勢力は沢山ありますが、だからといって、今は誰も大統領にはなりたくないのではないでしょうか。
 イフワーンが勝った時、「ババを引いたなぁ」と思ったのですが、引いたババのままエジプトごと沈没してしまわないか、本気で心配になってきました。